今年度は昨年度に引き続きJT重力の行列模型を用いた量子重力の研究を行った。まず、JT重力の分配関数の低温展開で見出された構造を一般の位相的重力の場合に拡張し、マクロ的ループ演算子の低温展開を系統的に計算する方法を開発した。また、最近エンタングルメント・キャパシティーと呼ばれる量のプラナー極限での値が計算されたことを受けて、ランダム純粋状態に対してキャパシティーの1/N展開の全次数を含む厳密な表式を発見した。続いて、行列模型のループ方程式と、2次元量子重力の微分同相写像によるゲージ不変性の関係を考察した。技術的な問題としては、これまで知られていなかったゼロ点エネルギーがゼロでない場合のループ方程式の表式を発見した。この式がMarolf-Maxfieldによって提案されているベビー宇宙のヒルベルト空間の構成法とは整合しないことを指摘し、その原因が重力の経路積分における時空の切り貼りと計量のモジュライ積分の大域性の問題にあることを指摘した。 次に、Gao達のend of the worldブレーンの構成法を改良し、JT重力の行列模型にFZZTブレーンを導入する一般的方法を発見した。ホーキング輻射のエントロピーが従うページ曲線を計算しているPenington達の模型に我々のFZZTブレーンの方法を適用し、彼らの模型では考慮されていなかったブレーンのバックリアクションを入れて計算すると、ブラックホールの蒸発において物理的に期待される、エントロピーが時間の関数として減少するという結果を得た。
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