研究課題/領域番号 |
19K03846
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
棚橋 誠治 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (00270398)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 素粒子質量の起源 / 電弱対称性の破れ / 有効理論 / 標準模型を超える物理 |
研究実績の概要 |
その起源が量子色力学の次元変性であることが知られているQCDスケールと異なり、電弱対称性の破れのスケール、つまり素粒子質量の起源はいまだ明らかになっていない。素粒子標準理論における説明はツリーレベルのヒッグスポテンシャルのパラメータ調整によるものであるが、QCDの場合とは異なり、この説明での電弱対称性の破れのスケールは古典的に禁止されておらず、巨大な量子補正を受けしまい、電弱対称性の破れのスケールの小ささを説明するためには、パラメータの微調整が必要となる。この問題を解決するため、これまで多くの素粒子標準理論を超える物理の可能性が検討されてきた。本研究は、これらの素粒子標準理論を超える物理を個々に調べるのではなく、統一的な有効理論を構築することで、模型の詳細によらない制限を得ようとするものである。 有効理論を用いて素粒子標準理論を超える物理に含まれる新粒子を調べるには、これらの新粒子を含む有効理論を構築せねばならない。2020年度のの研究では、ヒッグス有効理論を拡張し、任意個数、任意電荷、任意色荷をもつスピン0およびスピン1/2粒子の有効理論を構築した。標準模型を超える物理のヒッグスセクターは、電弱対称性の破れを正しく記述するよう、非線形シグマ模型を用いて記述され、カイラルオーダーカウンティング則として、有効場の理論におけるループ展開と矛盾のない定式化しを行い、系統的な計算を可能とした。幾何的手法を用いて素粒子相互作用を記述することで、有効場の理論に内在する演算子冗長性の問題を解消し、スカラー/フェルミオン場の内部空間の共変量のみを用いて質量殻散乱振幅を計算した。その際、従来、スカラー場のみを含む有効理論でのみ使用されていたノーマル座標という概念をフェルミオンを含む有効理論にも拡張・適用を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒッグスポテンシャルに含まれる質量パラメータは、素粒子標準理論の基礎的ツリーレベルパラメータのなかで唯一の質量次元を持つパラメータであり、現在でにしられているすべての素粒子質量を決定する電弱エネルギースケールの起源となるパラメータである。一方、ヒッグスラグランジアンには、ポテンシャル以外に運動項が存在し、ここから計量テンソルを読み取ることができる。計量テンソルがヒッグス運動項で与えられる多様体をヒッグス多様体と呼ぶが、ヒッグスラグランジアンはヒッグス多様体上の非線形シグマ模型に他ならない。ヒッグス場を点変換することでラグランジアンの見かけの形が変化することに注意が必要であり、とくに、ヒッグス多様体が非自明な曲率を持つ場合の散乱振幅の計算は自明ではない。 このような状況のもと、2019年度の本研究において、スピン0粒子のみを含む低エネルギー有効理論を構築し、幾何的手法を用いてその散乱振幅と輻射補正の構造を明らかにするとともに、スピン1のゲージ粒子の寄与についても一部の考察を行った。その成果はすでに、Phys.Rev.D 100 (2019) 7, 075020 として公表・発表されている。この研究に引き続き、2020年度の研究ではスピン1/2粒子をも含む低エネルギー有効理論の構築と幾何的手法の適用を行い、超対称模型とのアナロジーを用いることでノーマル座標の概念をフェルミオン空間にも導入することが可能であることを示した。このことによって、フェルミオンを含むツリーレベル散乱振幅を共変量のみを用いて記述することが可能となり、有効理論の手法に内在するパラメータ冗長性の問題が解決できることが示された。この成果は、PRD誌に投稿済みであり、すでにアクセプトされている。このように本研究計画は順調に進捗しいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、スピン0粒子とスピン1/2粒子の有効理論のツリーレベル散乱振幅の構造と幾何的不変量との関係はほぼ明らかになったと言える。これに対し、この研究の成果と実際の素粒子現象と比較するためには、これまで部分的にしかとりあつかっていなかったスピン1粒子を本格的に取り入れる必要と、1ループ発散を打ち消すカウンタータームに対応する幾何的共変量を明らかにすることが必要である。さらに、現在、あるいは、将来の高エネルギー素粒子実験によってこれらの共変量がどの程度まで測定できるかを明らかにする。ヒッグス多様体に非自明な曲率が存在する場合には、素粒子の高エネルギー散乱振幅の摂動論的ユニタリティーが破れるため、何らかの紫外完全化が必要である。このような場合であっても、曲率がある種の条件を満たせば、適当なスカラー場(拡張ヒッグス場)を多様体に追加することで、全体としては平坦な多様体を構成することができ、これは 物理的には、摂動論的ユニタリティーの条件を用いて紫外理論のパラメータを決定することに対応している。本研究では、このような数学を駆使することで、紫外完全理論の構築の見通しを良くする 。また、紫外完全な理論が存在しえない曲率領域をあらかじめ除外することで、有効理論パ ラメータの決定精度の向上を目指す。この方法では、ヒッグスの相互作用が標準模型のそれとは乖離していることが実験的に明らかになった場合、高エネルギー散乱振幅の摂動論的ユニタリティーを最小の方法で満たすために必要とされるBSM粒子の性質についても示唆を得ることができる。この場合は、高エネルギーでの摂動論的ユニタリティーを満たす模型において、多くの物理量が1ループ有限であることを活用することで、そのようなBSM粒子の質量に対してより精度の高い予言を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症問題のため予定していた出張がとりやめになったため。さらには、ソフトウェアが未対応だったため、新型計算機の導入が不可能だったため。現在ではソフトウェア対応も進んでおり、実際の出張をともなわない、研究打ち合わせや会議出席を円滑におこなうためのIT機器を含め、計算機環境の整備にあてる。また、コロナ感染症の問題が解決し次第、出張をともなう研究会出席を行うことで研究成果を広く周知する活動を行う。
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