研究課題/領域番号 |
19K03852
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山本 直希 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (80735358)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超新星爆発 / ニュートリノ / 輻射輸送理論 / カイラリティ |
研究実績の概要 |
重力崩壊型の超新星爆発のメカニズムに重要な役割を果たすと考えられているのが、星の重力エネルギーの大部分を持ち運ぶニュートリノである。しかしながら、従来のニュートリノの輸送理論の数値シミュレーションでは超新星爆発を理論的に再現するのは困難であり、その爆発メカニズムは未だによくわかっていない。昨年度(2019年度)の研究において、我々は素粒子の標準理論から出発し、ニュートリノの最も基本的な性質であるカイラリティを考慮した「ニュートリノのカイラル輻射輸送理論」を系統的に構築した。 2020年度の研究では、このカイラル輻射輸送理論をニュートリノが平衡に近い状況で解析的に解いた。系が平衡状態に至る典型的な時間である緩和時間を素粒子の標準理論から直接導いた上で、非平衡状態において磁場に比例するニュートリノのエネルギー流が存在することを示し、その解析的な表式を導出した。特に、マグネターの表面磁場程度の強さの磁場があれば、観測されている数100 km/sのパルサーキックを再現できることを示した。このような磁場によるニュートリノ流は従来の輻射輸送理論では考慮されていなかった効果であり、本研究結果はニュートリノのカイラリティの効果がマクロな超新星の物理に重要になりうることを示している。また、カイラル輻射輸送理論の別の帰結として、ニュートリノのカイラリティの効果によって周りの物質中に流体のヘリシティが生じる。このような流体ヘリシティの存在下では磁場の方向に電流が流れる「ヘリカル磁気効果」が現れるが、相対論的物質ではこの輸送係数が相互作用などの系の詳細に依らずカイラル量子異常の係数で与えられることを示した。 さらに、カイラル輸送理論を偏光している光子に拡張し、量子電磁気学に基づいて、光子の衝突項を含む量子輸送理論を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画にはなかったカイラル輻射輸送理論の平衡に近い解析的な解と磁場中のニュートリノのエネルギー流、ヘリカル磁気効果、光子のカイラル輸送理論に関して、それぞれ研究成果を出すことができた。また、当初の研究計画であった熱平衡状態のニュートリノ物質や電子物質から放出される重力波の左右の偏光の非対称性についても研究の進展があり、次年度(2021年度)には論文として発表できるのではないかと期待している。以上のことから、当初の研究計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、当初の研究計画であった熱平衡状態のニュートリノ物質や電子物質から放出される重力波の左右の偏光の非対称性に関する研究を完成させる。また、光子のカイラル輸送理論を曲がった時空に拡張し、「光子のカイラル輻射輸送理論」の構築を目指す。この理論は、超新星を含む様々な高エネルギー宇宙物理現象における電磁波の輻射に応用できると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で、当初予定していた国際会議への参加や研究者の招聘等が行えなかったため、次年度使用額が生じた。現時点では、いつ新型コロナウイルスが収束するか不透明であるが、可能であれば、2021年度に国際会議への参加や研究者の招聘を行いたいと考えている。
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