本年度は,一般相対論を拡張した重力理論であるスカラー・テンソル理論において,スカラー化した安定なブラックホール解が存在する条件について明らかにした.特に,南辻氏と高橋氏との共著の論文において,ブラックホールの事象の地平線でスカラー場の動径方向の微分が発散する場合に不安定性が生じることを一般的に示した.さらにホルンデスキ理論において,スカラー毛が存在する安定な静的・球対称ブラックホール解が,スカラー場とガウス・ボンネ項が結合している場合に絞り込まれることを明らかにした.また,スカラー場とガウス・ボンネ項が結合した理論において,星の中心付近でのラプラス不安定性が生じないための条件から,結合定数に対して理論的な上限を与えた.これは,重力波の観測から得られている制限のどれよりも強い上限値であり,その意味で価値のあるものである. ブラックホールや中性子星がスカラー毛を持つと,それらの連星系合体前に,テンソル型の重力波以外にスカラー型の重力波の放出も起こる.そのようなスカラー波の放出の影響は重力波の波形に影響を与えるために,観測からスカラー毛の存在を検証することが可能である.我々は,ホルンデスキ理論において連星系から放出される重力波の波形を計算し,ブラックホール・中性子星連星の観測によって,中性子星がスカラー化するときのスカラー毛の大きさに制限を与えることが可能であることを示した. 研究期間を通じて,上記のような強重力場中での物理現象の解明,さらには現在の宇宙の加速膨張のような大スケールで起こりうる現象の理論的な解明と観測からの制限の研究を行い,数多くの成果を挙げることができた.これらの成果は,ダークエネルギー・ダークマターの起源の解明,さらには一般相対論を超える理論を構築する上で,今後とも有用になることが期待される.
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