研究課題/領域番号 |
19K03858
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
佐川 弘幸 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 客員主管研究員 (50178589)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アイソスピン / ガモフ・テラー状態 / 荷電同位状態 / 荷電対称性の破れ |
研究実績の概要 |
現在まで、アイソスピン対称性を破る力はアイソスピン相似状態(IAS) のエネルギーや原子核質量のアイソスピン2重項及び3重項の対称性からのズレで議論されている。一方、理論的にはアルゴンヌV18 相互作用やCD Bonn 相互作用等の核子 核子散乱実験から決められた現実的な2体力を用いたBruckner 型計算やChiral effective eld theory でも研究されている。我々は、従来からCSB及びCIB 力を含めたSkyrme 型のエネルギー密度関数を提唱し、定量的な大きさを議論してきた。 しかし、現在の入手可能な実験値からは、これらの2体力のS 波に依存する関数形のみが議論されている現状である。スピンに依存する力やP 波に依存するCSB、CIB 力の関数形を含めたより詳細な議論には、2重アイソスピン相似状態等の研究が大きな意義を持つ。我々は、このような新しい励起モードをHFB やQRPA の微視的理論に基づいて研究する。また、量子色力学(QCD) との関連では、CSB 及びCIB 力の起因はu-quark とd-quark の質量や電荷の差に起因するため、CSB 及びCIB 力の定量的確立は素粒子物理学にも大きなインパクトを持つ創造性のある研究である。この研究では、最新の実験結果を踏まえながら、アイソスピンの破れの定量的な研究を進め、また関連領域への波及効果等も検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで研究の、一つの大きな課題として、アイソスカラー(T=0) スピン3重項型(S=1) 超流動状態の研究がある。そのためにアイソスカラー型対相関相互作用をアイスベクトル型対相関と共にをHFB プログラムに取り入れ、研究を遂行してきた。相互作用としてSkyrme型だけでなく、CD-Bonn 型の現実的相互作用に起因したエネルギー密度関数も用いる。さらに、基底状態の超流動状態により、2核子移行反応の断面積が増大することが予想されるが、その定量的予言には、原子核内の超流動相の波動関数と2核子移行反応を関わる粒子線の波動関数の、重なりが本質的な意味を持つ。その機構を、HFB 波動関数を核反応模型と結びつけ明らかにすることを目指した。 アイソスピンの保存を定量的に検証する実験的なアプローチとして、アイソスピン同位体がある。この励起状態は、これまでは球形核で研究されてきた。我々はこの研究を発展させ、変形核でのエネルギーの 4重極変形依存性を明らかにし、定量的なエネルギー公式を導いた。 また近年AI分野で、活発に応用されている機械学習の技法を、原子核のspectroscopyに応用し、原子核の半径の系統的研究に応用し、非常に精度の良い計算モデルを構築した。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度の研究では角運動量射影を取り入れた変形HFB 理論の計算プログラムも作成する。このような計算から、アイソスカラー スピン3重項型超流動状態の核図表上での存在領域を確定し、アイソベクトル型超流動状態との競合過程を明らかにする。さらに、核反応理論への応用にも取り組み、どのような反応機構により超流動相が検証可能かを明らかにする。 一方、2重ガモフ テラー励起状態及び2重スピン双極子励起状態はニュートリノの質量を決める零ニュートリノ型2重β崩壊と相補的な関係にある。複合領域にわたる課題として、非常に弱い遷移確率の2重β崩壊と非常に大きな確率遷移を持つ巨大スピン アイソスピン励起を同じ理論模型で定量的に解析することは、原子核物理だけでなく素粒子物理や宇宙物理にも大きなインパクトを持つ研究になると考えられる。このように従来の研究成果を踏まえ、2重荷電交換反応によるスピン アイソスピン励起の研究やCSB、CIB 相互作用の新しい次元を切り開くことを目指す。 近年の不安定原子核ビームの技術開発により、中性子数と陽子数のほぼ等しい陽子崩壊線近傍の質量数A=100 の原子核の研究が可能になってきている。この領域では、アイソスカラー型超流動状態がHFB 模型で理論的に予言されている。さらに変形を取り入れたHFB 模型理論計算の進展により、より信頼性のある予言が可能になってきた。このような理論計算をさらに進め、角運動量射影等を取り入れた信頼性の高い計算も実行したい。また、HFB 計算で得られた波動関数を、核反応計算コードに組み込み、微分断面積を計算することは実験研究者に超流動状態の実験検証の可能性を示唆するために重要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため参加予定の国際会議が全てキャンセルされたため。 今年度の国際共同研究、および国際会議等参加、発表の旅費として使用予定。
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