研究課題/領域番号 |
19K03858
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
佐川 弘幸 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 客員主管研究員 (50178589)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アイソスピン / ガモフ・テラー状態 / 対相関 / 荷電対称性の破れ |
研究実績の概要 |
本研究では、バリオン間相互作用及び原子核の構造における基本的対称性であるアイソスピン対称性を切り口に、基底状態における超流動状態のアイソスピン構造、電荷交換反応により明らかになる2 重アイソスピン相似状態、2 重ガモフテラー励起や2 重スピン双極子励起状態などの新しいスピン・アイソスピン励起状態を理論的に研究してきた。 特に令和3年度は、荷電対称性非保存力(CSB)及び荷電独立性非保存力(CIB) の効果を探り、ab initio 理論から原子核内でのその強さを決定する手法を検討した。また鏡映原子核の荷電半径とアイソスピンを破る核力との相関を研究した。また原子核の状態方程式、特に対称エネルギーの微分項とcharge changing 微分断面積の相関を調べ、鏡映原子核2つ用相関があることを指摘した。 本研究のもう一つの大きな課題として、アイソスカラー(T=0)スピン3重項型(S=1) 超流動状態の研究がある。そのためにアイソスカラー型対相関相互作用をアイスベクトル型対相関の効果を取り入れた2核子移行反応の研究を行なった。中重核の実験結果余の比較を行い、アイソスカラーの対相関の効果の検証にはより高いエネルギーの実験結果が必要であることを指摘した。 一方、宇宙の元素合成過程におけるベータ崩壊過程に重要なガモフ・テラー遷移を、標準的な模型を超えた2粒子2空孔状態を取り入れたsecond random phase 近似(SRPA)を導入し、テンソル効果も取り入れて研究した。以上の研究結果は、アメリカ物理学会発行のPhysical ReviewやPhysics Lettersなどの世界で一流の物理学のjournalに投稿し受理発表されており、また日本やヨーロッパの国際会議でも招待講演を行って高い評価を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで、バリオン間相互作用及び原子核の構造における基本的対称性であるアイソスピン対称性を切り口に、基底状態における超流動状態の アイソスカラー型およびアイソベクター型のアイソスピン構造、2 重電荷交換反応により明らかになる2 重アイソスピン相似状態、2 重ガモフ・テラー励起や2 重スピン双極子励起状態などの新しいスピン・アイソスピン励起状態を理論的に研究してきた。理論的な模型としては、平均場近似に基づくハートリー・フォック模型や乱雑位相近似を用いて基底状態および励起状態を研究してきた。その際に荷電対称性非保存力(CSB)及び荷電独立性非保存力(CIB) の効果を 取り入れた計算を広範囲にわたって行なってきた。これら研究成果は、広く多くの研究者に受け入れられている。
またガモフ・テラー状態や、ベータ崩壊をより精密に取り扱い予言能力を精密にするために、テンルル力の効果を取り入れたsecond 乱雑位相近似を発展させ、2粒子2空孔状態の評価も行った。これらの理論的な枠組みの進歩により、ガモフ・テラー状態の励起エネルギーと共にその崩壊幅を記述することにも成功し、ベータ崩壊の定量的な予言も行うことが可能になった、
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方策としては、次の2点を中心に行うことを転倒している。一つは、量子色力学 (quantum chromodynamics, QCD) に基づいた荷電対称性非保存力(CSB)及び荷電独立性非保存力(CIB) の導出である。これらのアイソスピン対称性を破る核力の起因は、u-quarkとd-quark の質量差および、原子核内でのchiral対称性の破れの部分的な回復である。これらの効果をQCD和則を用いて定量的に評価し、クーロンエネルギーにおけるOkamoto-Noren-Shciffer異常への効果を検討する。
もう一つの大きな課題としては、2粒子2空孔状態を取り入れたsecond 乱雑位相近似に対相関も取り入れて、閉殻原子核だけでなくopen shell原子核にも応用することである。このように、second 乱雑位相近似を拡張することにより、安定核のみならず不安定原子核も取り扱うことができ、中性子や陽子崩壊線近傍の原子核の原子核の励起状態にも応用が可能になる。これにより、宇宙の元素合成に重要な崩壊線近傍のR過程やRp過程の理論的な予言能力が大幅に改善することが予想される。
以上の2つの課題が今後の研究の推進方策として考慮中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による国際会議や国内研究所会の参加が制限されたため。
今年度の使用計画は、国内開催の研究会、および日本物理学会参加の旅費および登録料に使用するつもりである。
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