研究課題/領域番号 |
19K03861
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
萩野 浩一 京都大学, 理学研究科, 教授 (20335293)
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研究分担者 |
谷村 雄介 東北大学, 理学研究科, 助教 (90804310)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 核融合反応 / 核分裂 / 量子トンネル現象 / 微視的反応理論 / クラスター崩壊 / 生成座標法 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、1次元外部障壁のある多体系のハミルトニアンを考え、それに対する多体量子トンネル現象の問題を考察した。昨年度問題となっていた5 MeVのエネルギーシフトに関しては、波束の空間的広がりによる障壁の実効的な高さの変化を考慮すると解決することを見出した。また、重ね合わせの初期条件依存性を調べ、透過確率が初期条件にあまり依らないことを確認した。すなわち、重ね合わせた各スレーター行列式の初期値に対し異なるサンプルを3つ用意して計算を行ったところ、透過確率のエネルギー依存性はどのサンプルでも同じようなものとなった。 これと並行し、一昨年度に行っていた、2つのアルファ粒子の1次元散乱の問題を3次元に拡張することを行った。その際、クラスター物理でよく用いられるヴォルコフ力を用いた。中心衝突の範囲内ではあるが、1次元問題で得られた結論は3次元にしても変わらないことを確認した。 昨年度から始めた生成座標法を用いた誘起核分裂の研究に関しては、ランダム行列を用いた分析を行い、障壁を伴う崩壊の問題でよく用いられる遷移状態理論の仮定が多体ハミルトニアンを用いて再現できることを初めて示した。また、障壁からの崩壊の確率のゆらぎに関する議論を行い、熱浴からの崩壊定数が増加するにつれ、ゆらぎの分布が1次のカイ2乗分布から2次のカイ2乗分布へ滑らかに遷移することを明らかにした。更に、重い原子核が 14C などのクラスターを放出して崩壊するクラスター崩壊現象に静的な生成座標法を適用し、8重極変形を生成座標に用いることにより崩壊ダイナミックスが微視的に記述できること、得られた崩壊率が実験データをよく再現すること、などを明らかにした。これは本研究で用いている時間に依存する生成座標法に相補的なアプローチである。関連研究として、共役運動量を取り入れた生成座標法の研究も継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1次元の計算を拡張し、3次元の計算が行えるようになったのは一定の成果であった。これにより、核構造研究で実際に用いられるより現実的な核子間相互作用を用いた計算ができるようになり、より現実的な計算が行えるようになった。1次元外部障壁の問題に関しても、論文にまとめられる段階になっている。
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今後の研究の推進方策 |
一昨年度に我々が発表した結果に関して、コメントがついている (A. Ono, Phys. Lett. B826, 13693 (2022))。このコメントの主張は、我々が用いている波動関数は広い運動量分布を内在し、その高運動量成分が障壁を超えているだけである、というものである。もしこのコメントの主張が正しいとすると、本研究で用いている手法では量子トンネル効果が記述できていないことになる。しかしながら、この主張は部分的に正しい可能性はあるものの、実際にどのくらい主張が正しいかどうかは慎重に検討する必要がある。これに対応するために、今年度、1次元の外部障壁の問題に対しエネルギー射影法を組み合わせる取り組みを行う。もし、昨年度我々が得た結論が正しければ、エネルギー射影を行った後も確率は有限にとどまり、それは量子効果が記述できている証左になる。すでに準備的な計算を始めており、それを裏付ける結果が出つつある。 また、本研究で開発した研究手法を静的な核構造の問題へも適用する。具体的には、生成座標法で用いられる重み関数と変分関数の双方を最適化して系の基底状態を記述する。時間依存生成座標法では、初期値問題としてこれらの量の時間発展が決まったが、静的問題ではそれがエネルギー最適化の問題に代わる。すでにトイ模型を用いた解析を始めている。 核分裂の計算に関しては引き続き計算手法の開発を行い、236U の第一障壁の透過の問題などの実際の系に対して生成座標法+殻模型を用いた手法を適用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症のため、国際会議や国内外への出張の機会が激減した。当初予定していた出張が出来なくなったため、次年度使用額が生じてしまった。もし状況が改善されれば、昨年度生じた次年度使用額は複数の国際会議への参加や、外国人共同研究者との研究打合せのための旅費にあてる予定である。
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