今年度は、本課題で開発した研究手法を核構造に適用する研究を中心に行なった。通常、生成座標法では、物理的な直感によって選択された少数の基底を用いて多体系の波動関数を展開し、その展開係数を変分法により決定する。より具体的には、仮定された集団座標の経路に沿って局所的な基底状態を重ね合わせの基底にとる。しかしながら、そのように直感的に選ばれた基底が系の基底状態を記述するのに最適なものになっているかどうか保証はない。そこで、展開係数とともに基底そのものも最適化する方法を新たに開発した。この方法を 16O 核に適用し、最適な基底はそれぞれの集団座標において局所的な基底状態になっていないことを明らかにした。これは、励起状態を重ね合わせた方がハミルトニアンの非対角要素の絶対値が大きくなり、その結果、系の基底状態エネルギーが通常の生成座標法に比べて下がるというように解釈をすることができる。さらに、得られた基底は様々な変形度を持つものになっていることも明らかにした。これは、集団座標の取り方が従来考えられていたものに比べてかなり複雑になっていることを示唆している。これらの知見は、従来の方法で見過ごされていた全く新しいものであり、原子核の集団運動の理論を大きく進めるものであった。さらに、関連課題として、機械学習を用いた原子核の集団座標の抽出も行なった。この方法では、ランダムに生成された外場ポテンシャルにおける原子核の基底状態を求め、そのサンプルを機械学習の手法を用いて学習させ、画像認識のテクニックを用いて集団座標を抽出する。この手法で軌道を用いない密度汎関数法の構築に成功するとともに、抽出された集団座標が従来仮定されていたものから大きく異なることを明らかにした。この結果は、拡張された生成座標で得られた知見と類似のものであり、拡張された生成座標法の結果をよくサポートするものになっている。
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