研究課題/領域番号 |
19K03863
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西岡 辰磨 京都大学, 基礎物理学研究所, 特定准教授 (90747445)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 量子エンタングルメント / 共形場理論 / ホログラフィー原理 |
研究実績の概要 |
2020年度は共形場理論の非摂動論的な性質を解明するため以下に述べる二つの異なる研究を行った。
一つ目の研究では後藤(理研)、奥田、永野(東大駒場)とともに4次元 N=2 超共形場理論におけるヤヌス型の界面演算子が与えるエンタングルメントエントロピーへの寄与を調べた。ヤヌス型の界面演算子が存在する場合のエンタングルメントエントロピーは4次元 N=2 超共形場理論の結合定数を座標とするある多様体上の距離と同じであるという予想が以前から共同研究者の後藤と奥田によりなされていた。この研究では物理的に妥当な仮定の下で共形場理論におけるエンタングルメントエントロピーと球面上の分配関数が等価であることを示し、さらに球面上の分配関数を局所化の方法で厳密計算することでこの予想の正しさを裏付けることができた。
二つ目の研究では奥山(東大本郷)、小林(IPMU)とともに Minkowski 時空上の共形場理論において、二つの演算子が Regge 極限と呼ばれる光錐上に近づきながら十分離れる極限における演算子積展開を調べた。Euclid 時空上では演算子展開は通常二つの演算子が空間的に近い場合に良い展開を与えるが、Minkowski 時空上では光的に離れた二つの演算子の間の一般座標変換不変な距離はゼロに近づくため新たな種類の演算子積展開を考えることができる。この研究では昨年度の研究結果で得られた OPE block と呼ばれる非摂動的な情報を含んだ表式を用いることで演算子展開の Regge 極限を厳密に導出し、そこから光錐演算子と呼ばれる Euclid 時空上の共形場理論には現れない非局所演算子が得られることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
場の量子論に点状ではなく広がりを持った非局所演算子(欠損演算子)が存在する場合にそれらが量子エンタングルメントにどのような影響を及ぼすかはこれまであまりよく理解されていなかったが、近年の研究代表者の一連の研究により欠損演算子が共形対称性の一部を保つ場合はかなり一般的に理解が進んできた。今年度の研究では量子エンタングルメントが場の量子論の理論空間上の幾何学的な距離と関係していることが新たに分かった。非局所演算子の存在は量子物質の相構造と密接に関係しているため、これは当初の研究計画の一つである量子物質における指標としての量子エンタングルメントの役割を明らかにする目的を順調に達成している。
また共形場理論の演算子積展開は励起状態のエンタングルメントエントロピーの計算で重要であり、従来の Euclid 時空の手法では反映されていなかった Minkowski 時空の構造を今年度の研究でより直接的に扱えるようにした。これは研究計画の一つである量子エンタングルメントの新たな定式化を与えることに役立つと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究では場の量子論の理論空間の一部の幾何構造が量子エンタングルメントによって捉えられることが分かった。場の量子論の理論空間の構造を知ることは量子物質のトポロジカル相を含む場の量子論の相構造を分類する上で重要である。今後は理論空間のより広い領域の幾何構造を探るために一般的な欠損演算子入りの場の量子論の様々な量子情報量を調べたい。特に近年提唱された擬エントロピーはエンタングルメントエントロピーよりもかなり広いクラスの量子情報量であるため、エンタングルメントエントロピーでは区別できなかった理論空間の構造をより詳細に捉えられる可能性がある。
また最近の Minkowski 時空上の共形場理論で重要な役割を果たしている光錐演算子は量子エンタングルメントの計算手法の中で自然に現れる。これまでの研究では Eulid 時空の計算が中心であったため、光錐演算子の役割は全く考慮されていなかった。そこで今後の研究ではこの演算子の性質を活用することで、従来の Euclid 化した場の量子論の定式化とは異なる Minkowski 時空上における量子情報量の直接的な計算手法を発展させたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に引き続き新型コロナウイルスの影響で参加を予定していた国際研究会がオンラインに切り替わり海外出張が全くできなかった。国内出張についても同様であったため、予定していた旅費が余ってしまった。来年度も同様の状態が続くと思われるが、剰余分はオンラインでの研究環境の整備費や可能であれば海外の共同研究者などの招聘旅費に充てたい。
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