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2023 年度 実施状況報告書

量子物質とエンタングルメント構造

研究課題

研究課題/領域番号 19K03863
研究機関大阪大学

研究代表者

西岡 辰磨  大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (90747445)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2025-03-31
キーワード共形場理論 / 量子誤り訂正符号 / 量子エンタングルメント
研究実績の概要

量子情報分野において、量子誤り訂正符号はエラー耐性のある量子コンピュータ開発に必要不可欠な理論である。最近、量子誤り訂正符号は量子情報のみならず、理論物理学の様々な分野でも重要な役割を果たすことが分かってきた。

2023年度の研究では、量子誤り訂正符号の素粒子論への応用として、誤り訂正符号から二次元の共形場理論を構成する新たな方法を提唱した [SciPost Phys. Core 6 (2023), 035, JHEP 12 (2023), 127]。このように構成された共形場理論はボソン的な演算子しか含まないが、理論に存在する Z_2 対称性を用いることで量子誤り訂正符号からフェルミオンを含む共形場理論の系統的な構成法を提唱した。さらに、この手法で構成されたフェルミオンを含む共形場理論の中で、超対称性を持つ新たな共形場理論を発見した [Phys. Rev. D 108 (2023) no.8, L081901]。

量子情報量の一つであるエンタングルメントエントロピーは、場の量子論の持つエンタングルメント構造を調べる基本的な指標であるが、これまでの研究では二次元共形場理論や自由場のような簡単な場合でしか厳密な結果が得られていなかった。相互作用する場の量子論のエンタングルメント構造の非摂動論的性質を調べるため、質量のない相互作用する二次元フェルミオンを記述する Thirring 模型において、ボソン/フェルミオン双対性を用いることで、二つの領域の間の二次の Renyi エントロピーの厳密解を得た [Phys. Rev. D 108 (2023) no.12, 125016]。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

量子誤り訂正符号は場の量子論のトポロジカル相やホログラフィー原理との関係が指摘され、近年様々な分野で研究がなされている。2023年度の研究では、非二進数上の量子誤り訂正符号から二次元共形場理論を系統的に構成することができるようになった。特にフェルミオン化の手法と組み合わせることで、これまで知られていなかったフェルミオンを含むクラスの共形場理論を量子誤り訂正符号から数多く構成できる。その中には超対称性を持つような特別な共形場理論も現れることがわかり、量子誤り訂正符号を用いた二次元共形場理論の新しい分類が可能となった。また量子誤り訂正符号から構成した共形場理論には、対応する三次元チャーン・サイモンズ理論が存在することが分かっている。このような理論に関して符号に関するアンサンブル平均を取ることで、三次元量子重力と二次元共形場理論の間のホログラフィー原理を定量的に調べることができる。

また、Thirring 模型という相互作用する場の量子論において、エンタングルメントエントロピーや Renyi エントロピーと呼ばれる量子情報量を厳密計算する新たな手法を開発できた。この場合、ボソン/フェルミオン双対性を利用することで相互作用する場の量子論を、双対な自由場の理論で記述することができる。その結果、厳密計算では摂動論では分からない、理論の非摂動論的性質を捉えることができる。この手法を高次元を含む他の場の量子論に発展させることができれば、従来の手法では捉えられなかった場の量子論の持つエンタングルメント構造の理解に大きく役立つと期待される。

今後の研究の推進方策

2023年度の研究では、非二進数体および有限環に値を持つ比較的一般的な量子誤り訂正符号から二次元共形場理論を構成する手法を与えた。今後の研究では、この手法をさらに発展させることで、サブシステム符号という最も一般的な量子誤り訂正符号から二次元共形場理論を構成する。また、このように構成された共形場理論にフェルミオン化の手法を適用することで、新たなクラスのフェルミオンを含む共形場理論を構成し、その中で超対称性を持つ新たな共形場理論の発見および分類を試みる。

さらにサブシステム符号から構成された二次元共形場理論と三次元チャーン・サイモンズ理論の関係を明らかにする。このように構成されたクラスの共形場理論とチャーン・サイモンズ理論との対応は平均化を通して AdS/CFT 対応と関係を持っており、これを元に量子誤り訂正の観点から量子重力理論の性質を模索する。

量子誤り訂正符号には Haah 符号と呼ばれる三次元以上の時空のトポロジカル相と関係するものも存在する。今年度の研究の手法を用いると、このような興味深い量子誤り訂正符号から二次元共形場理論を構成することができるが、このように構成した共形場理論は特別な
性質を持つことが期待される。特にこれらの理論が高次元のトポロジカル相とどのような関係があるのか解明していきたい。またより一般に、どのようなクラスの量子誤り訂正符号から、三次元以上の時空上で定義された場の量子論が構成できるのかを明らかにしたい。

次年度使用額が生じた理由

他の業務との関係で予定していた国際会議への参加を取りやめたため、その分の旅費が余ってしまった。この剰余分は来年度、量子誤り訂正符号から共形場理論を構成するプロジェクトを円滑に推進するため、共同研究者である大学院生を RA として雇用するための経費に充てたい。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)

  • [国際共同研究] University of Texas, Austin(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      University of Texas, Austin
  • [雑誌論文] Narain CFTs from qudit stabilizer codes2023

    • 著者名/発表者名
      Kawabata Kohki、Nishioka Tatsuma、Okuda Takuya
    • 雑誌名

      SciPost Physics Core

      巻: 6 ページ: 035

    • DOI

      10.21468/SciPostPhysCore.6.2.035

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Narain CFTs from nonbinary stabilizer codes2023

    • 著者名/発表者名
      Alam Yasin Ferdous、Kawabata Kohki、Nishioka Tatsuma、Okuda Takuya、Yahagi Shinichiro
    • 雑誌名

      Journal of High Energy Physics

      巻: 12 ページ: 127

    • DOI

      10.1007/JHEP12(2023)127

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Supersymmetric conformal field theories from quantum stabilizer codes2023

    • 著者名/発表者名
      Kawabata Kohki、Nishioka Tatsuma、Okuda Takuya
    • 雑誌名

      Physical Review D

      巻: 108 ページ: L081901

    • DOI

      10.1103/PhysRevD.108.L081901

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Entanglement Renyi entropy and boson-fermion duality in the massless Thirring model2023

    • 著者名/発表者名
      Fujimura Harunobu、Nishioka Tatsuma、Shimamori Soichiro
    • 雑誌名

      Physical Review D

      巻: 108 ページ: 125016

    • DOI

      10.1103/PhysRevD.108.125016

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Quantum error correction and high energy theory2024

    • 著者名/発表者名
      Tatsuma Nishioka
    • 学会等名
      The 5th KMI School: “Quantum Computing and Technology for Particle Physics and Astrophysics”
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Quantum error correction and high energy theory2023

    • 著者名/発表者名
      西岡辰磨
    • 学会等名
      基研研究会 素粒子物理学の進展2023
    • 招待講演

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公開日: 2024-12-25  

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