研究課題/領域番号 |
19K03864
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
須山 輝明 東京工業大学, 理学院, 准教授 (20456198)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 原始ブラックホール |
研究実績の概要 |
放射優勢期において原始ブラックホールが形成されるための原始密度揺らぎの振幅の閾値を、原始ブラックホールの角運動量の関数として求めた。閾値は角運動量の2次のオーダーで増加し、回転速度が大きい原始ブラックホールほど形成しにくいという結果が得られた。一方、ガウス型原始揺らぎの場合、他の研究により原始ブラックホールの角運動量の大きさは、無次元Kerrパラメターにして高々0.01程度であることが示されており、この程度の回転の大きさに対しては閾値の角運動量依存性の効果は準優位であると分かった。このことから、少なくともガウス型原始揺らぎにおいては、原始ブラックホールの形成時における角運動量分布を主に決めるのは、閾値ではなく揺らぎの分布関数であることが分かった。 また、原始ブラックホールの形成時の質量分布や角運動量分布を計算する新しい理論手法を提案した。これはあるハッブル領域から原始ブラックホールが形成する確率をそのまま確率分布関数に置き換えていた先行研究の問題点を、揺らぎの空間スケールという自由度を導入することで解決するものである。この自由度を汎関数積分に取り入れることで、原理的には任意の原始揺らぎの統計分布に対して計算可能な定式化を与えることができた。また揺らぎがガウス統計分布に従う場合に具体的に計算をして、定式化の実証を行った。 また、インフレーション中に質量を無視できるほどの軽いスカラー場のような所謂等曲率揺らぎの高シグマ領域のみで原始ブラックホールが形成する場合において、原始ブラックホールの二点相関関数を計算し、それが非常に大きくなることを示した。これは、広範囲においてパワーを持つ等曲率揺らぎから原始ブラックホールを形成する初期宇宙のモデルに対する強い制限を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LVK Collaborationによるブラックホール連星合体の各イベントのデータ(O3 run)からブラックホールの角運動量の大きさの分布関数が二極分布しているかどうかの統計検定を行っている最中である。O3のデータを解析した先行研究により、ブラックホールの角運動量分布はゼロを中心とする単純なガウス分布よりは、角運動量がほとんどゼロを持つ種族と連星の軌道角運動量の向きと揃った割と大きな角運動量を持つ種族を示す分布の方が示唆されている。ただし、後者のベイズ因子が非常に大きいことから、独立な解析によってこの値を再現できるかどうかを行っている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況の欄で述べたように、LVK Collaborationによるブラックホールのデータから角運動量の分布が二極分布しているかどうかを明らかにしていく。仮に、この二極分布が正しければ、原始ブラックホールの角運動量はゼロに非常に近いというこれまでに得られた知見に基づき、角運動量がゼロの種族が原始ブラックホールと考えて矛盾がないかどうかを調べていく。そのために、角運動量がゼロの種族に該当する合体イベントのみに対して、合体率の宇宙赤方偏移依存性を解析し、それが先行研究によって与えられている原始ブラックホール連星合体の赤方偏移依存性と一致するかどうかを確かめることで、重力波観測から原始ブラックホールが宇宙に存在するかどうかを明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症により、ほとんどの国際会議・研究会がオンライン開催となり、当初使用予定であった旅費が必要とならなくなったため。今年度は現地開催が徐々に復活してきており、旅費に使用する予定である。
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