中性子星のような高密度コンパクト天体内部にはクォーク物質が存在する可能性がある。このクォーク物質は外部環境により極めて豊かな物質構造を示す。クォーク物質が強磁場下で示す熱応答や電磁応答といった輸送的性質の解明は、極めて強い磁場をもつマグネターの活動や中性子星合体という動的現象の解明に必要不可欠である。本年度は昨年度に引き続き双対カイラル密度波(DCDW)という特殊なカイラル結晶状態が示す電磁応答の磁場強度依存性についての評価を行った。DCDWは運動量空間に一対のWeyl 点を有するが、Berry接続にはこれらを線状につなぐストリングが現れ、異常ホール効果を発現させる。外部磁場が存在する場合、通常のホール効果も存在するため、これらの相関が重要となる。Stredaの枠組みを用いることにより、ホール伝導度の磁場及び密度への依存性について詳細な評価を行った。 また、当初の研究計画に加え、散逸のある回転系での保存量とそれが果たす役割についての考察を行った。重要な身近な例として逆立ちごまがある。重心が幾何学的な中心からずれた球体の一点に摩擦力が加わると重心が上昇するが、この現象にはJellett定数という保存量が重要な役割を果たす。このようにミクロな熱的散逸がマクロな系の運動の不安定を引き起こすことがある。簡単なシミュレーションにより、力学的不安定性の構造を探るとともに、天体現象への応用の可能性の検討を開始した。身近な物理の天体現象への応用という新しい研究の芽を見出すことができた。
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