研究課題/領域番号 |
19K03869
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
菅沼 秀夫 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10291452)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 量子色力学(QCD) / クォーク / グルーオン / 格子ゲージ理論 / 閉じ込め / ラージ N 極限 / ポリアコフ・ループ / カイラル対称性 |
研究実績の概要 |
1. 強い相互作用の基礎理論である量子色力学(QCD)が生み出す多様な物理とともに、クォークの閉じ込め、カイラル対称性の自発的破れなどの非摂動的性質を系統的にまとめ、専門的な教科書用の査読論文にまでまとめた。 2. ファデーフ・ポポフ 固有モード射影によるハドロン質量の研究:SU(3)格子QCDを用いて、ハドロン質量対して重要な寄与を与えるモードについて研究を行った。クーロン・ゲージ固定された ゲージ配位を ファデーフ・ポポフ 固有モードで展開し、展開係数の一部のみを残すという射影法を考案し、軽いハドロンおよび 0++, 2++ グルーボールの質量に適用した。その結果、β=6.0, 16×16×16×32の格子系では、全固有モードのうち、僅か 1%程度の低エネルギー固有モードのみで、これらの質量がおおよそ再現されることが分かった。さらに、この結果とクォーク模型との関連性を議論した。 3. SU(N) ヤン・ミルズ理論の非閉じ込め相における真空のZ_N構造:有限温度での格子SU(N) ヤン・ミルズ理論に対して、強結合展開の範囲内で経路積分を行い、ポリアコフ・ループの場の2点相関を計算し、Z_N中心対称性が自発的に破れた非閉じ込め相での、ポリアコフ・ループ場のゆらぎの相関長を導出した。カラー数Nが大きくなるにつれて相関長は増加し,ラージN極限では相関長が発散して新たな長距離相関が出現することを示した。この長距離相関は、理論のZ_N対称性がラージN極限でU(1)対称性に転化したことに伴う、南部・ゴールドストーン的なゼロ質量相関と解釈できる。 4. ホログラフィックQCDを用いたバリオン励起の研究:超弦理論から定式化されるホログラフィックQCDを用いてバリオンのディラテーション励起を研究し、450MeV程度の励起状態として現れ、ローパー共鳴状態N*(1440)がこれに対応すると同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナの世界的流行により、国内外の対面での研究交流が減衰したのは残念であるが、研究自体は、以下述べるように、おおむね順調に進展している。本研究課題は、極微の基本的階層であるクォーク・グルーオンから強い相互作用やハドロンの諸性質を理解することを目的とし、量子色力学の非摂動的性質に関連する様々な研究テーマを同時に複数進めている。強い相互作用の基礎理論である量子色力学に基づいた解析的な定式化も、スーパーコンピューターによる大規模数値計算も当初の計画通り進んでおり、着実に研究成果を得ている。 具体的には、1.強い相互作用の基礎理論である量子色力学(QCD)の非摂動的性質を系統的にまとめ、専門的な教科書用の査読論文としてまとめた。2.格子QCDに基づく大規模計算の理論的研究などを遂行し、国際会議および査読論文として発表した。3.強結合QCDのラージN極限での物理について、京大理学部の学生と研究を行い、原著論文を査読誌に投稿中である。なお 本研究は、共同研究者の学部学生が日本物理学会において発表し「学部学生ポスター優秀発表賞」を受賞している。4.超弦理論のDブレーンにより定式化されるホログラフィックQCDを用いたバリオンのディラテーション励起の研究は、日本物理学会などで公表し、共同研究者の大学院生は 本研究で「京大 理学研究科 銀楓賞」を受賞している。 このように研究成果は着々と出ており、それらに対する評価もなされている。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には今後も従来の方向で研究を進めつつ、研究領域を拡大していく。つまり、強い相互作用の基礎理論である量子色力学(QCD)に基づいて、クォーク・グルーオンのレベルから強い相互作用の基本的性質やハドロンの諸性質やそれらの極限的状況を研究していく。研究方法は、解析的な理論計算に基づく定式化と、強い相互作用の第一原理計算である格子QCD理論計算による定量的分析の2系統の研究を行っていき、QCDに基づいた非摂動物理やハドロン物理の総合的な理解を目指す。なお、格子QCD理論のモンテカルロ計算に関しては、引き続き京都大学および大阪大学のスーパーコンピューターなどを用いて、大規模数値計算を実行していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該科研費の事業期間(2019年度~2022年度)は、新型コロナの世界的流行の最悪の時期にあたり、多くの国際会議が中止や延期となった。 その結果、予定していた海外渡航費は使用できず、また研究交流等も充分に果たせていないので、研究交流と研究成果発表のためにも期間の延長をお願いしたい。 なお、新型コロナに関する状況は世界的にも徐々に回復しているので、来年度は、再開された国際会議等に参加する予定である。
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備考 |
researchmapと個人のwebページに、発表論文、及び、国際会議や日本物理学会での招待講演などの研究成果を記載している。
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