研究課題/領域番号 |
19K03874
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
高橋 智 佐賀大学, 理工学部, 准教授 (60432960)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | インフレーション / 初期宇宙進化 / 原始密度揺らぎ |
研究実績の概要 |
当該年度の成果の一つとして、当該年度中に発表されたNANOGravのパルサータイミングによる重力波の観測をインフレーションからの原始重力波で説明できるか解析したものがある。NANOGravの結果は(さらなる検証が必要であるが)振動数が10^{-8} Hz 付近に重力波のシグナルを示唆しているが、このシグナルをインフレーションからの原始重力波で説明できるか、インフレーション後の宇宙進化(熱史)も考慮して解析を行った。その結果、大きな振動数になるに従って振幅が大きくなるような原始重力波(所謂blue-tilted スペクトル) について、再加熱温度がある程度低い場合、他の重力波の制限(ビッグバン元素合成、LIGO-VIRGO重力波干渉計からの制限)と矛盾することなく、NANOGravのシグナルを説明し得ることを示した。また、標準的な宇宙進化のみではなく、インフレーション後に一度再加熱が起こった後、エントロピー生成が起こり再度再加熱が起こるようなシナリオの場合についても解析を行い、どのような場合にNANOGravのシグナルを説明できるか具体的に示した。 さらに、原始ブラックホールが高赤方偏移で観測されている超大質量ブラックホールを説明し得るシナリオを検証するための手段として、その角度相関関数について議論した。特に、スペクテーター場の揺らぎが原始ブラックホールを生成し得るシナリオに着目し解析を行った。原始ブラックホールがガウス的な密度揺らぎから生成される場合、宇宙背景放射のスペクトル歪みの制限と矛盾してしまうため、非ガウス的な密度揺らぎから生成されるモデルを考える必要があるが、スペクテーター場を用いたモデルにおいてはこれが実現され得る。我々はこのようなシナリオにおける角度相関関数について理論予言を与え、原始ブラックホールのクラスタリングの度合いが大きくなることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度においては、上記で述べたようにインフレーションからの原始重力波の検証に関する研究が進めることができ、さらには、原始ブラックホールが高赤方偏移の超大質量ブラックホールを説明するようなモデルに対する新しい検証方法に関する研究も進んだ。 さらには、現在、重力と非最小結合を持つような一般的なインフレーションモデルにおける解析も進んでおり、概ね研究は順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、インフレーション、及び、初期宇宙進化を探るための新しい検証方法を将来の銀河サーベイなどを視野に入れ、模索していきたい。特に小スケールに着目して研究を進めていく予定であるが、その際、宇宙物理学におけるモデリングなどがインフレーション、及び、初期宇宙進化を探る際にどのような影響を与え得るかなどにも着目し研究を進めていきたい。 さらには、複数の観測を用いたシナジーなども視野に入れ、インフレーション時期から、その後の宇宙進化まで包括的な理解を目指し研究を進めていきたい。また、原始ブラックホールに関して、原始密度揺らぎの性質を探る観点からの研究も進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の影響で出張することができず、旅費を使用しなかったため次年度使用額が生じた。 次年度の状況にも依るが、研究会出席、国際会議出席等のための出張が可能になれば、旅費として使用する予定である。また、物品購入にも充てる予定である。
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