最終年度における成果のひとつとして、複数場インフレーションモデルを将来の宇宙背景放射の偏光観測であるLiteBIRDでどのように検証できるか調べた研究がある。将来のLiteBIRD実験では(テンソル・スカラー比の大きさに依るが)原始重力波パワースペクトルのスケール依存性に対して、現在の観測よりも厳しい制限が得られると期待される。複数場インフレーションモデルでは、テンソル・スカラー比と原始重力波パワースペクトルのスペクトル指数の間の整合性関係が単一場インフレーションモデルのものから逸脱することが予言される。そのため、現在すでに厳しく制限されている密度揺らぎ(スカラーモード)パワースペクトルの情報と重力波パワースペクトルの情報を合わせることにより、複数場インフレーションを厳しく検証できる可能性があることを指摘した。その他、原始ブラックホール生成、早期暗黒エネルギーが存在した場合の宇宙進化などに関する研究成果などもあった。
研究期間全体においては、複数場インフレーション、重力と非最小結合を持つインフレーション等の枠組みでのインフレーションモデル、また、インフレーション後の初期宇宙進化シナリオについて、様々なモデルフレームワークでのシナリオについて検討し、どのようなモデルが現在の観測データと整合するか、素粒子論、重力理論における具体的なモデル構築の可能性など、様々な知見を得ることができた。また、将来の宇宙背景放射の偏光観測、宇宙の大規模構造、中性水素21cm線の観測等を用いて、インフレーション、および、その後の初期宇宙進化をどのようにして探るか、その方法論についての研究も進めることができた。本研究で得られた成果は今後の精密宇宙論時代の初期宇宙進化研究において有用であると考える。
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