研究課題/領域番号 |
19K03875
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
伊藤 悦子 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 協力研究員 (50432464)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 有限密度QCD / 符号問題 / 量子計算 |
研究実績の概要 |
2021年度は、大きく以下4点の研究をおこなった。 (1) 2カラーQCDの格子シミュレーションの続きを行い、16^4の配位データを用いて、低温・有限密度領域における状態方程式を第一原理計算で求める研究をおこなった。これに関連して、2回学会講演を行った。現在、結果をまとめて論文を執筆中である。 (2) 2カラーQCDの格子シミュレーションの続きを行い、32^4の配位データを用いて、flux tubeやq-qbarポテンシャルなどのグルオニックな物理量の密度依存性を調べた。これまで低温高密度領域には、閉じ込め現象が見られることをポリヤコフループの1点関数から示唆を得ていたが、その相関関数であるウィルソンループからも、閉じ込め現象が確認された。これに関して、国際会議のProceedingを出版済みである。 (3) 同じく上記32^4の配位データを用いて、ハドロンの2点関数からハドロンスペクトルの密度依存性を求める研究も引き続き行なっている。当初計画していた200配位では統計が良くないことがわかり、2倍の統計数の400配位を目標として配位生成並びに解析を実行中である。 (4) 現実の3カラーの有限密度QCDは符号問題が生じることが知られる。この符号問題を根本的に解決する方法として、ハミルトン形式のゲージ場の理論の数値シミュレーション法として、量子計算アルゴリズムを用いた研究をおこなった。これに関して、2本論文を出版した。そのうちの一本は、Progress of Theoretical and Experimental PhysicsのEditors’ Choiceに選出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は状態方程式に関する研究を開始し、既存のデータをうまく使う方法を考え出すことで、一年足らずで非常に新しい結果を得つつある。これに関しては当初予期していなかった結果を得ることになり、当初の計画以上に進展しているとも言える。一方で、32^4の大きな格子を用いたハドロンスペクトルの研究は、統計数が当初想定していたものより多く必要であることがわかり、2022年度の完成を目指して研究を進行中である。これまでの解析で、予想していなかった励起状態やメソンとバリオンの混合状態が生じることがわかりつつある。 一方で、2021年度から符号問題を生じさせる場の理論へのアプローチとして、新たに量子アルゴリズムを用いた研究を行い、2本の論文を出版した。1本目の論文では、QCDと同じく閉じ込めを表す線形ポテンシャルを持つことが示唆されている1+1次元のシュウィンガー模型において、予想されていたように線形ポテンシャルが生じることを示した。2本目の論文では、普通のシュウィンガー模型を拡張することで、従来の計算法では強い符号問題が生じて計算不可能な領域に、「負の弦の張力」を生じさせる領域があることを新たに数値計算で示した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度(2022年度)は、現在進行中の状態方程式の決定や、ハドロンスペクトルの決定を仕上げたい。状態方程式に関しては、既にデータはほぼまとまり、現在論文を執筆中であるため、2022年度中に完成させられると考えている。ハドロンスペクトルに関しては、これまでのデータの解析により、予期していなかったメソンとバリオンの間の状態の混合が見られることがわかったので、一度大雑把なハドロンのスペクトルの密度変化について結果をまとめた後、さらに研究を深めていこうと考えている。また、スペクトルの結果から、どのモードがどのモードに崩壊する可能性があるか考慮したあと、ハドロン間相互作用の密度依存性についても調べていきたい。 一方で昨年から始めた量子計算に関する研究は、2022年度以降も続ける。ハミルトン形式による場の理論のシミュレーションとしては、量子計算とテンソルネットワーク法が有望しされている。現在はまだ低次元の可換ゲージ理論について研究を行っているが、高次元の非可換ゲージ理論の計算実装の方法を模索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度と2021年度で毎年参加予定のLattice国際会議や、国内研究会・学会がコロナウイルス蔓延のためにオンライン開催になり、海外出張等の旅費が大幅に余ることとなった。2022年度は対面開催のものが増えると考えられるので、そこで有効に利用したい。
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