2023年度には、次のような論文を査読を経て学術雑誌に発表した。 (1) Parth Bambhaniya(アハメダバード大)らとともに我々の銀河系中心近傍を運動する星S2の軌道の観測データから、銀河中心天体がスカラー場をもつ裸の特異点である可能性を議論した。(2) 伊形尚久助教(学習院大)らとともに、ブラックホール周りに暗黒物質が存在する場合の近点移動について論じ、S2の軌道の観測データから暗黒物質の密度に対する観測的上限を求めた。(3) 伊形助教らとともに球対称静的時空における準円軌道の近点移動に関する一般公式を導出し、能動的重力質量密度が重要な役割を果たすことを示した。(4) 柳哲文講師(名大)らとともに原始ブラックホール形成において重要な役割を果たす圧縮度関数を再検討し、元々の定義が本来意図した量とは異なっていることを示した。(5) 斎藤大生氏(名大)らとともに宇宙の状態方程式が輻射流体よりも柔らかい場合に生成される原始ブラックホールのスピンは、輻射流体優勢宇宙の場合よりも大きくなることを示した。(6) 石井貴昭助教(立教大)らとともに負の宇宙項からなる反ドシッター時空中のスカラー場系のブラックホールについて、無限遠でロビン境界条件を課した場合の相転移について調べた。(7) 中尾憲一教授(大公大)らとともに重力崩壊を経ずに真空の凝縮によって生成されるグラヴァスターが熱的な放射をすることを示した。 研究期間全体の研究成果について、詳細に述べるには字数が少なすぎるが、本研究の中心的な課題である原始ブラックホールのスピンに関わる研究論文を3編、またそれと密接に関わる原始ブラックホールの形成に関わる研究論文を5編、それぞれ研究期間中に査読を経て国際的な学術誌に掲載されるに至り、大きな成果を上げることができた。
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