研究課題/領域番号 |
19K03877
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
安井 幸則 摂南大学, 理工学部, 教授 (30191117)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 共形キリング・矢野テンソル / ブラックホール時空 / 変数分離性 |
研究実績の概要 |
ブラックホール時空の共形キリング・矢野テンソル(以後CKYと略記)は本研究において中心的な役割を果たす。歴史的には,カー時空上の測地線方程式の保存量を与えるカーター定数がCKYの“2乗”の形で書けることを発見したペンローズとフロイドの論文(1973)から始まる。その後,カー時空上の場の方程式の変数分離性に対してもCKYが幾何学的な説明を与ることがわかり,その有用性は多くの相対論研究者に知られることになった。2000年代に入ると,超弦理論や超重力理論に動機づけられた高次元ブラックホール時空の研究が活発に行われた。本研究との関連で大きなブレークスルーは,一般次元においてCKYを許す高次元ブラックホール時空の一意性定が証明されたことである(Houri-Oota-Yasui 2007) 。このようなブラックホール時空に対しても場の方程式の変数分離が期待できる。実際,クライン・ゴードン方程式(Frolov-Krtous-Kubiznak 2007), ディラック方程式(Oota-Yasui 2008)の変数分離性が示され,任意のスピンを持つ場の方程式に対しても同様な変数分離性が成立と思われた。しかしながら,スピン1以上については大きな障害が現れ現在に至っている。特に,スピン1のマックスウェル方程式,スピン2の重力摂動方程式の変数分離性を示すことが本研究の目標である。 2017年にルーニンが高次元ブラックホール時空上のマックスウェル方程式が変数分離性するという論文を発表した。対称性の視点からは大変驚くべき結果であり,これに対しその幾何学的な背景を理解することが今後の研究の出発点になると考えた。私たちはルーニンの変数分離定数がCKYから誘導される対称演算子の固有値になっていることを示した。こうしてCKYがスピン1のマックスウェル方程式に対しても有効に働くことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高次元カー時空上のマックスウェル方程式について,共形キリング・矢野テンソル(CKY)が方程式の可積分性に対して幾何学的な根拠を与えていることが明らかとなった。この結果は,本研究課題の最終目標である,高次元ブラックホールの摂動論の構築に対し大きな前進である。さらに,CKYが摂動論構築の鍵になるであろうとの予想を確かなものにした。
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今後の研究の推進方策 |
スピン1の理解が深まったことを踏まえて,スピン2の重力摂動方程式の変数分離性の研究に取り組む。関連する論文として,大阪市大の大田さんと2010年に行った共同研究「Separability of Gravitational Perturbation in Generalized Kerr-NUT-de Sitter Spacetime」がある。高次元ブラックホールの複数ある角運動量を揃えると対称性が増すため解析が容易になる。このような状況でテンソルモードと呼ばれる特別な重力摂動に変数分離性が現れることを示した論文である。テンソルモードにブラックホールの不安定性が含まれるかどうかを調べる問題は興味深い。さらに,スカラーモード,ベクトルモードに対して変数分離性を調べることも本研究の課題である。具体的な計算を積み上げることにより,重力摂動方程式の隠れた対称性が明らかになることを期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響を考慮して,学会,研究会,共同研究のための出張を中止した。2022年3月にはセミナーや研究会を対面で実施できることを期待している。講演者の旅費などに予算を使う予定である。また,学会,研究会,共同研究のための出張に予算を使う予定である。
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