研究課題/領域番号 |
19K03887
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
下村 真弥 奈良女子大学, 自然科学系, 助教 (70555416)
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研究分担者 |
蜂谷 崇 奈良女子大学, 自然科学系, 助教 (10589005)
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研究期間 (年度) |
2019-03-01 – 2022-03-31
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キーワード | Multi-parton interaction / QGP / MPI / 高エネルギー原子核衝突 |
研究実績の概要 |
今年度は、衝突に関与しない粒子のエネルギーによって衝突イベントを細かくクラス分けし、それぞれのイベントクラスについて反応平面の補正係数を求め直し、クラス分けしない場合と比較した。その結果、周辺衝突以外では、クラス分けが影響しないことがわかった。さらに1つのクラスのエネルギーの範囲をこれまでの10倍にしても結果が変わらないことがわかったので、10倍にして統計量を増やし誤差の小さな結果を得た。また、エネルギーのクラス分けを行わない場合と行った場合の結果を比較し、そこに違いがあることがわかった。その結果、中心衝突(BBC荷電粒子数が1400から1600)で、v2 vs. BBC荷電粒子数のグラフの傾向が変化し、傾きがフラットになることがわかった。これは、MPIの効果の可能性がある。またこの研究を2023年に渡米し新しく始まるsPHENIX実験で測定するために、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))に応募し、採用された。またこの研究を含むv2の研究について第 7 回「物質階層を横断する会」で招待講演を行った。またシミュレーションによるこの研究の根拠の裏付けも進んだ。これらの研究目的と経過を国内の会議(新学術領域研究「量子クラスターで読み解く物質の階層構造」第5回領域研究会「Detection of the multi parton interaction (MPI) producing the minimal quark gluon plasma (QGP)」)やセミナーで発表(名古屋大学にて、「Study of Multi-Parton Interaction(MPI) with v2 at Heavy Ion Collisions」)し、ポジティブなフィードバックを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
測定の重要なパートはほぼ終わり、プレリミナリーな結果を昨年度より精度の高い、バックグラウンドの少ない状態で得ることができた。統計を得て誤差を小さくするため、イベント選定のクラス分けの領域幅を増やし、そのことによる結果の変化はないことを確認した。オンライン会議でv2研究に詳しい他の研究者達の意見を聞き、そこで得た新たなアイデアにより、BBCでクラス分けした場合、ZDCでクラス分けした場合、等、系統的研究を行った。 解析を進めるにつれて、MPIの効果をみるために、ダブルコリジョン(1バンチクロスの間に2つ以上の衝突が起こること)からくるバックグラウンドをひくことが重要なことがわかり、そのために衝突時間によるイベント選定も行った。さらにトリガー情報を利用することで、元々ダブルコリジョンの少ないデータをより分けて違いを確認する解析を行なっている。さらに、グラウバーモンテカルロシミュレーションを行い、核子の内部構造を考慮した時に、従来のように核子の内部構造を無視した時に比べて、初期の幾何学的なエキセントリシティーが大きくなることを確認した。エキセントリシティーが大きくなれば、v2は大きくなる。また、同じ衝突関与粒子数のイベントにおいて、内部構造を考えた場合、中心衝突では、衝突に関与したパートンの数が大きくなるとエキセントリシティーが大きくなる可能性を示唆する結果を得た。これはこの解析手法の妥当性を裏付ける。中心衝突において特定のZDC領域を選ぶと、v2 vs. BBC荷電粒子数の傾きの傾向が変化する結果が得られて、これがMPIの効果の可能性を示唆している。さらにこの結果を国内外の学会で発表していくため、実験グループ内の承諾を得るプロセスに入っており、順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、高エネルギーの原子核衝突実験を使って、マルチパートンインタラクション(MPI)が起こっている効果が見えるかどうかを生成粒子の方位角異方性v2を測定して検証する。衝突に関与しない粒子のエネルギーによって衝突イベントを細かくクラス分けを行う。今後は、まず現在進めているダブルコリジョンからくるバックグラウンドの研究をさらに発展させて、結果への影響を見積もる。さらに、現在使っている粒子多重度を測るBBC検出器に加え、新たにセントラルアームを使って測る粒子多重度の情報を使い、生成粒子のクラス分けの精度を上げる。また、国内外のマルチパートンインタラクションについて研究する会議や、物理学会等で、この研究について成果を発表する。さらに反応平面の分解能が高い検出器の情報も反映させるとともに、VTX検出器によるトラックカットを導入することで、トラッキングアルゴリズムからくるゴーストトラックを落とし、測定結果の精度を上げる。この結果を論文にまとめる準備を行うと同時に2023年にスタートするsPHENIX実験での測定の準備を行う。また、測定の精度を上げるために導入する検出器の研究開発を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVIDー19の影響により、ブルックヘブン国立研究所への研究出張や参加を検討していた国際学会がなくなったため。
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