研究課題/領域番号 |
19K03889
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
小林 正規 千葉工業大学, 惑星探査研究センター, 主席研究員 (70312080)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 宇宙ダスト / 質量・速度分離測定 / ポリイミドフィルム / 圧電性PZT / アコースティックエミッション / ガイド波 |
研究実績の概要 |
「質量と速度の分離測定」のアイデアを検証するための実験と考察を行った。複数のフィルム型センサーを利用して質量と速度を分離測定する方法について、理論的な整理を行った。これは、シリコン半導体検出器などを利用した荷電粒子の原子番号・質量数を測定するためのΔE×E法から着想した方法で、フィルム型センサーにダスト粒子が衝突したときには、「貫通する・しない」のいずれの場合でも運動量に比例した信号が得られることから、1枚目のフィルム型センサーで部分的な運動量の測定値としてΔp、残りのフィルム型センサーでの測定値との和で運動量pとして、Δpとpの関係から衝突ダスト粒子の質量と速度を分離するという方法である。Δpを表わす半実験式を基に、質量mと速度vを測定量としてのΔpとpのみから求めることができることを式で示した。これらについては、2件の国内学会(宇宙科学技術連合講演会およびJAXA宇宙科学のための室内実験シンポジウム)で発表した。 このΔp×p法を実証するために、JAXA衝突銃(>3km/s)の超高速領域JAXA衝突銃については、コロナ禍のためマシンタイムが限られたため計画していた実験時間を確保できなかったが、実際にガラス球(φ350μm)を3~5km/s空気銃の実験を実施してデータを取得できた。このガラス球は、実際に宇宙で観測対象としているダスト粒子よりもかなり大きいが、衝突銃実験の便宜上のことからである。2枚目のフィルム型センサーで模擬ダスト粒子を止めて、センサー出力の信号もかなり大きなものになるため信号波形取得のオシロスコープで信号レベルが飽和しないようにする、バランスのとれた実験コンフィグレーションを確立することができた。実験Δpおよびpの絶対値校正のための静電加速器実験が真空ポンプ故障のためできなかったが、相対値としての比較では、理論的な予測に沿った結果が得られたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は本年度(令和3年度)で終了するはずだったが、コロナ禍のためにJAXA超高速実験施設の二段式軽ガス銃(衝突銃)の実験回数が12日間の予定が4日間に減ってしまった。当初より実験回数が減ってしまうことを予想していたため、元々考えていたφ10μmのガラスビーズを模擬ダスト粒子を使うことを、歩留まりが悪いためあきらめ、確実なショットができるφ300μm以上の微粒子を模擬ダスト粒子として使うことで実験コンフィグレーションが大幅に変更になり、4日間の実験のうち、3日間を新しい実験コンフィグレーションの確立に費やした。ただし、この実験方法で今後は効率よく実験ができると考えている。 また、センサー感度の絶対値測定には欠かせない静電加速器については、真空ポンプが故障してしまい代替品を探すために年度後半は実験ができなったため、本研究課題の実験ができなかった。真空ポンプは交換できたので今後の実験には支障ない。一方で、真空チャンバーの蓋を開閉する作業を省力化する改良を行い、従来そのためだけに複数人数が必要だった実験が一人でもできるようになり、静電加速器実験の効率を向上することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は本年度(令和3年度)で終了するはずだったが、コロナ禍のために実験回数が減ったために研究期間を延長させていただき積み残されている実験を進める。具体的には以下の通りである。 「質量と速度の分離測定」については、本年度にまとめた模擬ダスト粒子をフィルム型センサーで質量と速度を分離して測定する方法の実験的検証を終わらせるはずだったが、マシンタイム不足のために未達成であるため、これを引き続き行う。元々はφ10μmのガラスビーズを模擬ダスト粒子として、厚さ7μmのポリイミドフィルムを使ったセンサーに衝突させ、1枚目のフィルムは貫通して2枚目で止まる条件で実験を行うつもりだったが、この条件でのショット成功率の歩留まりが悪いため、確実なショットができるφ300μm以上の微粒子を模擬ダスト粒子として使うことにする。この実験の方法は本年度すでに確立しているので、次年度は同じ実験セットアップでデータを取得するのみである。来年度はこの方法で模擬ダスト粒子条件、つまり、粒径(300μm~500μm)、材質(ガラス球、アルミナ、ジルコニウム)、衝突速度(3~5km/s)と変えてデータを取得する。 一方、上記実験で使用する100μm厚のポリイミドフィルムでの感度の絶対値を測定するために大阪大学の静電加速器を使った実験を行って感度校正を行う。 このテーマについては、外部での実験機会が限られるコロナ禍でもできる実験として自作の空気銃を使った低速領域の実験を令和2年度から始めたが、速度測定の問題が解決したので、衝突銃実験の補完実験を行う。 「衝突角度の測定」については、25μm厚のポリイミドフィルムに対して、貫通しないφ10μmのガラスビーズを衝突銃で単発撃ちしてフィルム中に発生するAE波の異方性を調べるつもりだったがこれまでの実験結果とシミュレーション結果を考察して研究結果をまとめることにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度コロナ禍のために実施できなかった実験に関わる経費がそのまま残ってしまった。具体的には、JAXAへの旅費および実験機材の輸送費(1回あたり5万円、3回分)、真空ポンプ故障で実験できなかった大阪大学での静電加速器実験のための旅費および実験機材(10万円)である。 次年度は本来の目的の用途に使用して研究を完了させる予定である。
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