研究課題/領域番号 |
19K03904
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
堂谷 忠靖 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 教授 (30211410)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | X線連星 / X線バースト / 中性子星 / 低質量X線連星 / 核物質 / 状態方程式 |
研究実績の概要 |
本研究の主目的は、X線観測から中性子星の質量半径に制限を加えることである。研究実施計画に従い、X線バースト呼ばれる現象のエネルギースペクトル中に、吸収線や吸収端が検出できないか、「すざく」衛星のアーカイブの解析を進めた。解析にあたっては、(1) 既知のX線バースト天体のデータ解析、および (2) 銀河面および銀河バルジ領域のサーベイデータの解析を行った。いずれの場合も、長くて明るいバーストを優先したが、暗いバーストも含めて観測できた全バーストを解析した。(1)については、Aql X-1、XB1916-053、GS1826-238、4U1705-44からのX線バーストの解析を行った。(2)については、2E1742.9-2929が偶然視野に入り、しかもX線バーストが観測されていたことから、解析を行った。(1)、(2)を合わせて、約30のX線バーストを解析したものの、どれからも有意な吸収線や吸収端は検出されなかった。 研究実施計画では、検出が有望視されるX線天体がアウトバーストを起こした場合には、TOO(Target Of Opportunity)観測を提案する予定にしていた。2019年8月にSAX J1808.4-3658がアウトバーストを起こしたが、一般の研究者がTOO提案を出す前に、NICERチームが集中観測を実施した。出版論文を見る限り、吸収線や吸収端は検出されていない。 上記と並行して、X線バーストの吸収線・吸収端以外の方法で、中性子星の質量半径に制限を加えられないか、検討を進めた。その結果、X線パルサーで観測される鉄輝線の中心エネルギーの(パルス周期に同期した)変動を検出できれば、中性子星の慣性モーメントが推定可能なことがわかった。今年度はこの方法の有効性を確認するため、典型的なX線パルサーHer X-1の解析を進め、鉄輝線の中心エネルギーの決定精度などの評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題については、4年計画の1年目が終わったところであり、ほぼ想定通りの進捗である。 研究実施計画では、1年目にX線衛星のアーカイブデータを活用してX線バーストの解析を行い、そのスペクトル中に吸収線や吸収端を探索する計画とした。その計画に従い、「すざく」衛星のアーカイブデータの系統的な解析を進め、5天体について解析を行った。解析の結果、いずれのX線バーストからも吸収線や吸収端は検出できなかったが、もともと容易に発見できるスペクトル構造ではないため、想定内の結果である。2年目も、同様の解析を継続していく。 また、1年目の計画では、スピンが遅いことがわかっているX線バースト天体のTOO(Target Of Opportunity)観測を計画していた。スピンが遅ければ、スピンでスペクトル構造が鈍ることなく、吸収線・吸収端の検出可能性が高まる。ただし、スピンが遅いX線バースト天体は通常は暗く、たまに明るくなった時しかX線バーストを起こさない。2019年8月にSAX J1808.4-3658がアウトバーストを起こしたものの、NICERチームが独自に集中観測を実施し、一般研究者がTOO観測をトリガーすることはできなかった。今後もTOO観測の機会をうかがって行く。 中性子星の質量半径の関係を求める方法として、X線バースト以外の方法についても、検討を深めることができたことは新規の進展である。X線パルサーでは、降着物質が角運動量を持ち込むため、中性子星のスピンが徐々に早くなって行く。持ち込まれる角運動量がわかれば、スピン周期の減少率から、中性子星の慣性モーメントが推定可能になる。これは、鉄輝線のドップラーシフトが計測できれば、原理的には推定可能である。ただ、現実の観測で意味のある制限が得られるかは、実際のデータにあたってみる必要があり、2年目につながる課題である。
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今後の研究の推進方策 |
1年目は、当初の実施計画に従って研究を進めることができたため、2年目以降も概ね実施計画に従って研究を進めて行く。 X線バースト中の吸収線・吸収端の探索では、「すざく」衛星のアーカイブデータの解析を継続していく。「すざく」衛星のX線望遠鏡は、有効面積が大きく、明るい天体でも(光子のpile-upが起こりにくいため)観測可能で、望遠鏡が非常に良く較正されている、などの理由からX線バーストの観測に適しているからである。ただし、「すざく」衛星は観測運用を終了していて、今後データが増えることはない。そこで、海外の衛星、特に米国のNuSTAR(2012年打ち上げ)、NICER(2017年国際宇宙ステーションに設置)のデータも利用していく。NuSTARは、アーカイブデータも多く蓄積されているので、まずはアーカイブデータの解析を行う。NICERについては、有望天体であるSAX J1808.4-3658のアウトバーストの観測が2019年になされているので、そのアーカイブデータ(既にオープンになっている)が最初に取り組むべき解析になる。 TOO観測については、1年目にアウトバーストを起こしたSAX J1808.4-3658については一般研究者が提案する余地がなかったものの、今後も有望な天体(スピンが既知で遅いX線バースト天体)については、アウトバーストの情報を注視し、適宜TOO観測を提案していく。 X線バーストの吸収線・吸収端以外の手法として、X線パルサーからの鉄輝線を活用した手法を検討した。この手法を用いるには、鉄輝線の中心エネルギーの(パルス周期に同期した)ドップラー偏移が検出可能なほど大きなX線パルサーを対象に選ぶ必要がある。「すざく」衛星のアーカイブデータを活用して、いくつかのX線パルサーで解析を試み、鉄輝線のドップラー偏移が検出可能か、そのfeasibilityについて評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、成果発表の場として、日本天文学会2020年春季年会(2020年3月16-19日、筑波大学)を予定しており、それに必要な出張旅費を確保していた。しかし、新型コロナの影響により、現地開催が中止になり、発表スライドをuploadする形式に変更になった。そのため、確保しておいた旅費分の予算が余り、次年度使用とせざるを得なかった。 次年度についても、日本天文学会2020年秋季年会がオンライン開催とすることが決定されるなど、学会・研究会参加予算が予定より少なくてすむ見込みである。繰越分と合わせて、旅費の削減分の予算は、論文出版を前倒しで行うなどして、研究成果の公表に活用していく予定である。
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