研究課題/領域番号 |
19K03906
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
花輪 知幸 千葉大学, 先進科学センター, 教授 (50172953)
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研究分担者 |
松本 洋介 千葉大学, 大学院理学研究院, 特任准教授 (20397475)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 原始星 / ブラックホール / 流体力学 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
計算セルの中心と方位角方向の境界面では動径(r)方向や方位角(φ)方向がわずかにずれる効果を取り入れて、円筒座標系での流体力学方程式から差分方程式を導いた。新たに導いた差分方程式を用いると、円筒座標のz軸を通り過ぎる流れを安定かつ精度良く計算できる。特に、密度・速度・圧力が空間的に一様となる流れを、丸め誤差の精度で解けることは特筆に値する。これは数値流体力学でfree-streaming preserving と名付けられた、差分誤差による座標系の曲率による見かけの力を消去できたことを示す。初期に密度や圧力が階段的に変化する衝撃波管問題でも、新たに開発した差分法では曲率の大きい座標のz軸付近でも、精度の高い解が得られることを確認した。得られた解では全質量、z軸周りの全角運動量、z軸方向の全運動量、全エネルギーが打ち切り誤差なしで保存する。さらにこの差分方程式はz軸の周囲での角分解能をΔφ=60°と下げても、free-streaming preserving が保たれ、解の精度も十分に高い。これにより時間ステップΔtをはるかに大きく設定することが可能になり、比較的少ない計算資源で長時間の進化を追えるようになった。成果の一部は国内外の学会で発表した。また原著論文を国際学術誌に投稿し、審査を受けている。さらに開発したコードを利用して、原始星TMC-1Aの周囲に見られる非対称ガス降着を再現する散発的なガス降着モデルを作成した。塊となってきたガスが円盤に衝突したとすると、青方偏移したガスが卓越することや、円盤の一部が失われるなど、観測から予想されていた構造を再現できた。開発した差分方程式を使うと、回転しながら膨張するアウトフローも安定に追えることも確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画していたよりはるかに誤差を小さくすることができた。またより高次精度を実現するための考え方や、球座標に拡張するための指針が明確になった。原始星への応用でも一定の成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
[原始星への応用] TMC-1Aのモデル計算では分子輝線の観測結果と比較し、落下してくるガス塊の落下方向や大きさについて制限を求め、その結果を学術雑誌に投稿する論文としてまとめる。落下するガスの総量は、輝線の強度と円盤の欠損から推定できる。
[数値計算法の開発] 球座標への拡張を検討する。球座標でも計算セルの境界面が曲りを補正する因子を導入すれば、 free-streaming preseving を実現できる可能性が十分に高い。得られた場合は衝撃波管問題などでその性能を確認する。また公開コード CANS+に新しい差分方程式を組み込むための検討を行う。特に問題となるのは、方位角分解能をz軸からの距離の関数とする部分である。CANS+は並列計算できるように設計されているので、その効率を下げないように配列や領域分割を考えなくてはならない。
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