研究課題/領域番号 |
19K03907
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
谷川 衝 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (20550742)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 二重白色矮星 / Ia型超新星 |
研究実績の概要 |
Ia型超新星は宇宙で最も明るく頻繁に起こる爆発現象の1つである.また宇宙の距離指標として利用されていたり,鉄の主な起源であると考えられている.このように重要な天体であるが,その起源は明らかになっていない.連星系の中にある白色矮星の熱核爆発であることは広く受け入れられているが,どのようなタイプの星が伴星であるのか,爆発する白色矮星自体の質量はどのくらいなのか,についてわかっていない.近年,伴星のタイプとして主系列星や赤色巨星では説明できないIa型超新星が発見されたり,2つの白色矮星の合体でできるチャンドラセカール質量の白色矮星ではIa型超新星とはなれないことが理論的に知られていることから,2つのサブチャンドラセカール質量の白色矮星からなる連星のうちの1つの白色矮星が爆発するモデルが多数提案されている.その中でもDinamically-Driven Double-Degenerate Double-Detonation(D6)モデルは,その副産物である超高速度星が発見されたことから,有力候補の1つになっている.我々の目的はD6モデルがIa型超新星のモデルとして妥当かどうかを数値シミュレーションを用いて検証することである.
本年度は,D6モデルに沿って,1太陽質量の白色矮星が爆発した場合,その伴星の白色矮星が誘爆されるかどうかについて検証した.その結果,誘爆に必要な条件を明らかにした.まず伴星がヘリウムを主成分とするヘリウム白色矮星の場合であるが,この場合,連星間の距離が非現実的に近くなければ誘爆は起こらない.また,炭素酸素を主成分とする白色矮星の場合,非現実的に分厚いヘリウム外層を持たなければ誘爆は起こらない.したがって,D6モデルにおいて誘爆は基本的に起こらないことを示した.この事実はD6モデルがIa型超新星のモデルであることを間接的に指示する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ある爆発する白色矮星に対し,様々な伴星を考えて,爆発に対する伴星の反応を検証した.その結果,現実的な条件では伴星の誘爆は起こらないことを示した.これに関する査読論文を出版し,また3つの国際研究会で招待講演を行った.これらの実績に基づき,我々の研究は順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に行ったシミュレーションデータを使って,以下2つの数値シミュレーションのための初期条件を作成した.1つめは,D6モデルの擬似観測のための輻射輸送計算である.我々がD6モデルの爆発噴出物を詳細に調べた結果,爆発が伴星から剥ぎ取った炭素や酸素が存在することが明らかとなった.もしこれらが観測に受かるはずなのであれば,D6モデルはIa型超新星の特徴と矛盾することになる.そのため,我々は今年度に輻射輸送計算を行い,この点を検証する.2つめは,D6モデルのそのあと数百年の進化を追う超新星残骸シミュレーションである.D6モデルは伴星が障害となり,非球対称な爆発噴出物を作る.この特徴が超新星残骸のフェイズまで保存されれば,Ia型超新星残骸とは矛盾することになる.我々はこれら2つのシミュレーションを行うことで,D6モデルの妥当性をさらに厳しく精査する.
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次年度使用額が生じた理由 |
大容量のファイルサーバーを購入予定であったが現在使用中のものでわずかに間に合ったこと,前年度の終盤は新型コロナウイルスの影響があったため海外出張を控えたことがその原因である.今年度,海外出張が可能かどうかは不透明であるが,前年度購入しなかったファイルサーバーを購入したり,現在蓄積しつつあるデータを解析するための高性能なワークステーションを購入したりして予算を使用する計画である.
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