研究課題/領域番号 |
19K03909
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
左近 樹 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (70451820)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 星間有機物 / 赤外線 / 星間塵 / 実験天文学 / 窒素 |
研究実績の概要 |
本研究では、終焉期を迎える恒星の質量放出の過程で、窒素が混入したダストが形成される過程を観測的および実験的な手法で理解する事を目的とする。窒素が ダストに混入し得る環境として、具体的には、連星系を成す白色矮星が引き起こす爆発的質量放出現象である古典新星の他、大質量星の終焉期の爆発的な質量放 出現象であるWolf-Rayet星などに着目し、それらの天体に観測される未同定赤外バンドの特徴を系統的に理解し、それらの特徴を再現する実験室有機物の合成実験を行なった。これまでに、新星の周囲に観測される未同定赤外バンドの特徴を極めてよく再現する実験室有機物の合成に成功し、新星周囲で形成される有機物の正体が、窒素をアミンの形で3-5%程度含んだ有機物であることを明らかにした。これによって、長年の未解決問題として掲げられてきた未同定赤外バンドの担い手の同定に対して、特に新星周囲に観測される未同定赤外バンドに対して、革新的な理解を得ることに至った。 また、終焉期の恒星によって生み出される有機物と太陽系の始源的有機物の関連を調査する目的で、国際宇宙ステーションきぼう実験棟船外暴露実験装置を用いて、実験室有機物の宇宙環境曝露実験をたんぽぽ2ミッションの枠組みで行い、1年間の曝露を行った実験試料の回収に成功し、分析を開始した。 さらに、米国の次世代の赤外線ミッションOriginsの科学技術検討活動に参加し、次世代の星間有機物研究及びアストロバイオロジー研究の開拓に注力した。特にOriginsのベースライン装置の一つである中間赤外線観測装置MISCの検討をリードし、その概念設計検討の結果を、米国Decadal Surveyt委員会へのOriginsの最終検討報告書に加えて、JATIS誌上で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19の影響により、ダストの合成実験および分析実験の遂行に、若干の影響があるものの、たんぽぽ2実験の枠組みで実施した宇宙曝露実験の試料は、1年間の宇宙曝露を経て2021年2月にJAXAより返却され、赤外線分光学特性の分析(東京大学にて実施)に着手した。 新星周囲で合成される有機物の、実験室における有機物ダストの合成実験の結果はAstrophysical Journalに投稿し、現在査読中である。 次世代のアストロバイオロジー研究および星間有機物研究に関連して、米国の次世代の赤外線宇宙望遠鏡Origins Space Telescopeの科学技術定義チーム活動に参加し、これまで特にベースライン観測装置の一つである中間赤外線観測装置MISCの概念設計検討をリードし、その成果を、米国Decadal Survey委員会に向けた最終検討報告書に加えて、Journal of Astronomical Telescopes, Instruments, and Systems (JATIS)に投稿し査読を経て受理に至った。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに実施した実験室における有機物合成実験の結果の整理をさらに進める。また、たんぽぽ2ミッションの枠組みで実施した窒素含有有機物の宇宙曝露実験の試料の分析について、赤外線分光特性の分析は東京大学大学院理学系研究科天文学専攻で保有する赤外顕微分光装置を用いて、またX-ANESの分析は分子科学研究所UVSORの共同利用研究として(2021年度前期は2021年7月にビームタイムを獲得した)実施する。それらの研究成果を踏まえて、終焉期の恒星で合成される有機物の物性理解に進捗をエルとともに、それらと太陽系の始源的有機物との関連の議論を深化させる。
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