研究課題/領域番号 |
19K03910
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
野村 英子 国立天文台, 科学研究部, 教授 (20397821)
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研究分担者 |
薮田 ひかる 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (30530844)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 星・惑星形成 / 原始惑星系円盤 / 星間化学 |
研究実績の概要 |
R3年度は、以下の研究を進めた。(1)原始惑星系円盤から放射される、線中心は光学的に厚い分子輝線の裾の光学的に薄い部分を用いて同位体組成比を求める手法を開発した。また、その手法をTW Hya円盤のALMA観測アーカイブデータに応用し、12CO/13CO比分布を測定した。その結果、円盤内の同位体比は半径方向に大きく変化し、100au以内では星間物質の平均値(~69)より低く(~20)、100au以遠では高い(~100)ことが分かった。円盤内縁の同位体比は、炭素・酸素元素組成比がC/O>1のもとでの同位体交換反応で説明でき、外縁の同位体比は、同位体のダストへの束縛エネルギーの違いで説明できる。同位体比は、分子雲から原始惑星系円盤を経て惑星系に至る物質進化を探る上での有力な指標となるが、本研究により、12CO/13CO比が惑星系の物質起源を探る鍵になり得ることが示された。(2)ALMAアーカイブデータを用いて、TW Hyaまわりの原始惑星系円盤よりHC18O+を初検出した。このデータと既存のH13CO+の観測データより、同位体比H13CO+/HC18O+=10.3を導いた。さらに、同位体交換反応により同位体濃縮が進行していると仮定し、H13CO+/HC18O+比より13CO/C18O=8.3を導出した。この結果は、星間物質の平均値と同程度であった。一方で、太陽系の隕石中の酸素同位体異常は、分子雲や原始太陽系円盤中の選択的光解離で解釈されている。それによると、円盤の気相中でC18Oが減少することが予測されるが、今回の観測はそれに反する結果であった。これは、TW Hya円盤と原始太陽系円盤の環境の違いに起因する可能性がある。(3)はやぶさ2プロジェクトにおける小惑星リュウグウ帰還試料の初期分析に専念し、本科研費研究に関わる有用な成果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R3年度は、概ね当初の予定通り、ALMAアーカイブデータの解析と輻射輸送や同位体化学反応のモデル計算を行い、原始惑星系円盤中のCO同位体比を導き、炭素同位体比が円盤半径に依存して大きく変化することや酸素同位体比が太陽系近傍の星間物質の平均値と大きく変わらないことを示した。さらに、はやぶさ2プロジェクトにおける小惑星リュウグウ帰還試料の初期分析をすすめた。
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今後の研究の推進方策 |
はやぶさ2の小惑星リュウグウ帰還試料の初期分析の成果が得られたので、それをもとに、原始惑星系円盤から微惑星への物質進化を探るモデル計算を氷マントル反応と同位体化学反応の観点から進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、研究打ち合わせのための国内出張や海外からの研究者の招へい、また、研究成果発表の出張旅費に使用予定であったが、COVID-19の影響で、予定していた出張や招へいがキャンセルになったため、使用できなくなった。 2022年度は出張が可能になりつつあるので、2021年度繰越分とと2022年度に予定していた分を合わせて、研究打ち合わせおよび研究成果発表の出張旅費に使用する。海外からの研究者の招へいも、可能であれば行う。
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