研究課題/領域番号 |
19K03913
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
李 兆衡 京都大学, 理学研究科, 講師 (50611844)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 超新星残骸 / 大質量恒星進化 / 宇宙線 / 非熱的放射 / 質量放出 |
研究実績の概要 |
大質量星はその一生を終える際に大爆発し、超新星という明るい天体現象として観測できる。超新星は恒星進化の終着点であり、その観測データは未だに謎が多い親星の素性や大質量星進化の最終段階などを解明するための鍵にされている。特に親星が爆発直前に星周空間へ放出した質量は超新星の衝撃波と相互作用して非熱的放射が発生する。今年度の主な成果は、超新星残骸(SNR)を用いて、超新星の起源とその親星の素性を探る手段を確立するための幾つの研究結果である。特に種類の違う親星・超新星由来のSNRを細分し、それぞれの進化を定量的に比較する内容になっている。まず赤色超巨星を経由して爆発に至るII型超新星残骸を想定し、その超巨星の質量放出の歴史を取り入れ、より現実的な星周環境をモデル化した。太陽の12倍と18倍の質量を持つ親星において、それぞれの超新星爆発から1万年後までの多波長放射の時間進化を解いた。その結果、今までの標準的描像と全く異なった、「初期(1000年前)では明るく、中期(1000-5000年)では観測できないほど暗く、後期(10000年以降)ではまた増光する」という非単調的な光度曲線を得た。即ちII型SNRに暗いフェーズが存在することを初めて発見し、我々は「ダークエイジ」と名付けた。重力崩壊型超新星の半分ほどはII型であるが、次に数が多いタイプはIb/c型超新星である。しかし、Ib/c型超新星由来のSNRに関してはほとんど調べられていない。今回はIb/c型超新星残骸はどんな特徴を持ってるのかを年齢別に計算した結果、Ib/c型SNRはII型とは対照的な時間進化を示した(II型の進化は明→暗→明、Ib/c型では暗→明→明)。II型の親星が単独星であるのに対し、Ib/c型では親星が連星系であることがII型と振る舞いとの違いを生み出す。以上はApJとApJL誌上で国際査読論文2本として出版された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
超新星残骸は爆発から数十年から数万年まで広い波長域で観測でき、かつ約10光年のスケールで広かる天体現象である。超新星放出物質とそれにより掃かれた星周物質は衝撃波でX線の温度まで加熱されているほか、荷電粒子(陽子、電子、重イオン等)が高エネルギーまで加速されて明るい非熱的電磁波を放射する。このため、SNRは親星の星周環境(あるいは親星の質量放出とエネルギー解放の歴史)と内部構造を丸裸にできる貴重な天体と言える。特に、前進衝撃波由来の非熱的放射は直接に星周環境の密度構造と相関するため、SNRの非熱的放射の時間進化を計算することによって、星の爆発前の活動を探ることができる。超新星残骸の非熱的放射には豊かな多様性があるが、その起源は未だに解明されていない。本研究は、業界で初めて親星・超新星の種類を分けて、各種類ごとに適切な恒星進化モデルを用いてそれぞれの星周環境を計算した上、数値計算の手法でSNRの非熱的放射の長時間進化を系統的に調べた。我々のチームが開発した流体・非線形宇宙線加速シミュレーションコード(CR-Hydroコード)を応用し、大きな課題2点を解決した。即ち、(1)そもそもSNRの星周環境の多様性はどこから生まれたのかについてはまだ不明のままである、(2)親星の恒星進化を無視した非現実的な星周環境を仮定したモデルであった故、定量的な考察はまだできなかったという問題点である。具体的に、重力崩壊型超新星の大半を占めると思われるII型とIb/c型SNRにおいて我々発見した異なる光度進化は、親星の質量放出歴史に直結した結果であると分かった。その正反対な時間進化を見せることが、SNR種族全体への理解に大きな意味を持つと提唱した。それは従来の(恒星進化と質量放出を無視した)理論モデルでは説明できなかったことであり、我々はSNRへの理解における超新星爆発前の物理の重要性を示した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後については、研究実施計画に沿って、以下の課題に挑む予定である: (1) より親星・超新星の種類を分けて、例えばIa型、IIb型、IIn型など他のタイプの超新星由来のSNRについて調べて行く。その結果を今までの成果と統合し、さらにSNR種族全体への理解を深める。 (2) 今までの非熱的放射を加えて、熱的X線放射の計算を取り入れ、より全面的な進化モデルの構築に目指す。熱的X線放射の計算手法については、すでに我々の国際チームが並行して開発を完成したゆえ、今後は効率よく我々のフレームワークに実装できると予想できる。 (3) 1、2の結果を用いて、将来観測計画を想定した理論予測を行う。例えばCTA、FORCE、XRISM、ATHENA、LEMなどの将来ミッションに観測提案を提供する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナウェルスの影響で多数の国外会議出席の断念が余儀なくされたため、今年度は海外渡航が再開できる場合を想定して、渡航旅費として去年度の差額の利用を希望する。
|