本研究は惑星状星雲の三次元分光データに基づき、中心星付近から星間物質に至るまで広がる星周殻内の原子/分子ガス・ダストの完全な三次元物理量分布を調査し、中小質量星における恒星風質量放出の定量的解明を目指すものである。目標を達成するため、可視域三次元分光データを高角分解能分光データに再構築する手法および可視データのみでガスとダスト質量の空間分布を得る手法を独自に開発した。これらの手法を適用することで、波長0.4-1ミクロンの範囲で角度分解能1.3秒角を達成し、全波長にわたり点拡散関数が完全に一致しているガス・ダストの物理量空間分布を明らかにすることができた。ガスとダストの両方の物理量を一つの「可視データのみ」で算出した先行研究は存在せず、本研究が世界初の例となる。本研究課題によって恒星風質量放出に関する知見を以下に示す。1) ガス・ダスト質量の空間分布は一様ではなく、赤道に沿って質量が集中していることが示された。AGB星段階での非等方な大規模質量放出が赤道トーラス構造を形成し、それがその後の小規模質量放出の方向性や非球対称星雲殻形成を駆動していると考えられる。2) ガス-ダスト質量比は一定ではなく、星雲殻端で約110から中心星付近で約1200にまで空間的に大きく変化している。ダスト質量からガス質量を換算する際のガス-ダスト質量比100は星間物質に対しては適切であるが、星周物質に対しては不適切である。この誤用が恒星風質量放出率の誤算や銀河のミッシングマス問題の一因である可能性が示唆されている。3) 元素組成の空間分布も一様ではなく、星周殻形成と中心星進化史を反映している。元素組成は中心星からの距離によって変化し、星雲殻極方向に沿って大きな勾配があり、AGB星段階で合成された元素はこの方向に沿って拡散していることが初めて明らかになった。
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