研究課題
渦状銀河磁場は、平均で数-数十マイクロガウスあり、乱流成分が平均場成分よりも卓越していると考えられている。磁場の推測値は、シンクロトロン放射を起源とする電波連続波の偏光放射強度と観測周波数の関係から導出している。しかし、偏波放射量は、生成源から観測者までの経路上の積分量であることから、経路上の複数の放射源の有無や磁場構造などを判断する事はできない。そのため、我々は物理量の空間分布がわかる3次元磁気流体数値計算結果を用いてシンクロトロン放射の擬似観測を行い、放射分布と実際の物理量分布の関係を明らかにする事を目指した。特に、観測者まで伝搬する過程で偏波を打ち消しあう偏波解消の効果に着目した。電波放射帯のシンクロトロン放射は波長の2乗で放射強度が強くなる。偏波解消が無い場合は、偏波放射強度も放射強度と同じ依存性を示すが、偏波解消によって急激に偏波放射強度のみが低下する。この偏波放射強度がピークとなる周波数と放射領域の3次元空間構造に因果関係があるかを調べた所、スケール長の長い、回転量度変化が小さい偏波放射領域は、円盤面から離れた所に偏波放射源がある事がわかった。複数の放射源が視線に重なりあっているときは単純な振る舞いはしないが、偏波放射のピーク放射強度から視線上の放射領域を推定できる事を示している。これは、多周波数の偏波解析結果を用いて複雑な解析無く、空間構造を理解する手法である。これらの結果をまとめた論文を現在投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
作成した放射輸送コードには、波長非依存偏波解消、差分偏波解消、ビーム偏波解消の大別して3種類の偏波解消効果を考慮している。更に、波長非依存型偏波解消は、分解能以下の乱流の効果を大局成分に依存させる非等方乱流効果を取り入れてある。本年は、乱流の非等方性に関して詳細を調べた。積分された波長非依存偏波解消の効果は、乱流の非等方性によって小さくなっている。つまり、非等方乱流効果を取り入れた場合、波長偏波解消はほとんど働いていない。しかし、局所的な領域ごとの偏波率を調べると、磁気渦状腕の近傍で若干非等方性が見られるが、円盤内はほぼ等方的乱流分布をしていることがわかった。そこで、積分値と局所領域の違いの詳細を調べた所、乱流領域の偏波放射強度は、差分偏波解消によって弱くなっている事、偏波放射強度が強い領域は、磁場のスケール長の長い領域で、視線上を足し合わせる効果による偏波解消しない事が起因していることがわかった。さらに、低周波で偏波が残る領域の3次元空間分布を調べた所、円盤面から2-3kpc上部にある磁場構造が偏波放射の起源であり、より強磁場の円盤部の放射分布は消偏波されることがわかった。全ての領域ではないが、回転量度変化が一定の場合などには消偏波が開始される周波数と円盤面からの高さに相関がある事あわかった。これらの効果をTashima, Ohmura, Machida (2022)として、論文を投稿中である。銀河ガス円盤は冷却と加熱の効果の兼ね合いで、10K-100万Kまでの多温度層を形成していると考えられている。我々の数値計算も複数温度層の計算を自己矛盾なく追えるようにコードを改訂し、そのテスト計算を行っている。
数値計算結果を用いた擬似観測コードの開発とその解釈に関して、系外銀河を仮定した場合に関しては、新たな観測データの解析手法の提案など、一定の成果を得ている。しかし、これらの計算で用いた数値計算結果は断熱を仮定しており、実際の銀河ガス円盤の温度分布を再現できていない。より現実的なモデルを作成する事を一つの目標として、ガスの冷却、加熱項を取り入れた数値計算コードの開発を行ってきた。2021年度にテスト計算は終わったため、2022年度は、本格的に冷却入りの数値計算を進める。この計算によって、ガス円盤中に形成される冷たいガス塊(分子雲、冷たいHIガスに相当)と磁場構造の因果関係、ガス塊の分布などを調べる事ができる。また、異なる温度層における乱流のスケール長、各層へのエネルギー輸送の起源などを明らかにすることを目標としている。
本年度も前年に引き続き、コロナのために国内会議、国際会議ともオンライン開催となったため、旅費をほとんど使用していない。必要な物品類は昨年度購入しているため、本年度は物品購入の予定もなく、結果的に予算をほとんど使用できなかった。2022年度は、国内研究会も現地開催が増える見込みである。また、国際研究会にも共同研究者が参加予定のため、こちらの旅費にあてる予定である。
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Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: - ページ: -
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