研究実績の概要 |
近年の高精度観測装置によって、銀河中心には太陽質量の100万倍から10億倍もの超巨大ブラックホール(SMBH)が普遍的に存在し、その質量は銀河バルジの質量に比例することが明らかになってきた。しかしながら、その形成メカニズムは未だ謎に包まれており、天文学における最重要テーマの1つである。この問題を解決するために、銀河からのガス供給により形成される数10パーセクの銀河核ガス円盤(CND)を介して、銀河からブラックホールまで6桁ものダイナミックスレンジに渡るガス降着過程と、ブラックホール近傍からの輻射やWindによるフィードバック効果を整合的に考慮した理論モデル「多階層連結モデル」の構築が必要である。近年、銀河団中心の巨大楕円銀河で大量の分子ガス銀河団中心での AGN feedback に果たしている役割について調べるために、新たに準解析的モデルを構築した。計算の結果、核周円盤はその質量の変化により安定と不安定の状態を行き来する一方、ブラックホールへの降着率を長期的には一定に保つという調整弁の役割を果たしていることがわかった(Fujita, Kawakatu, Nagai 2022)。 近年、サブパーセク領域に注目すると、AGNから輻射によりWindが吹き、低光度AGNのときのみ、極方向へガスが巻き上げられることが分かった。このことは、Windがサブパーセクスケールでの遮蔽だけでなく、ジェット収束にも寄与する可能性があることを示唆するものである(Kawakatu et al. 投稿準備中)。加えて、AGN起源で吹き飛ばされたガス雲により、パーセクスケールのAGNジェットの伝搬が一時的に阻害されることも明らかになった(Kino, Niinuma, Kawakatu, et al. 2023)。これらの成果から、超巨大ブラックホールの周辺領域は従来の予想よりも複雑な現象が起こっていることことが示唆される。
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