研究課題/領域番号 |
19K03919
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
富阪 幸治 国立天文台, 科学研究部, 名誉教授 (70183879)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 星間磁場 / 磁気静水圧平衡 / 非局所熱平衡 / Goldreich-Kylafis効果 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、星形成過程の磁場変化を観測的に明らかにすることを目的とする。星間磁場の形状は磁場に整列した星間ダストによって生じる直線偏光を利用して探索される。本研究課題では、この整列したダストによる偏光以外の効果、すなわち、磁場中の星間分子のZeeman分裂した順位間の遷移によって生じる分子線の直線偏光であるGoldreich-Kylafis効果を測ることで、磁場の形状に迫ることを目標としている。 (1) フィラメントに垂直に貫く磁場をもつ星間フィラメントの力学構造とその観測的特徴について検討した。星間ガスを等温および、密度上昇とともに低温化する状態方程式の場合について静水圧平衡解を調べた。等温に比べ後者の状態方程式がフィラメント内部で観測される半径方向の密度分布をよりうまく説明する結果が得られた。 (2) この解が、磁場に整列したダスト起源の熱輻射によってどのような偏光パターンで観測されるかを予測し、星形成の兆候のないフィラメント(NGC1333)に対するJCMT望遠鏡波長850μmによる観測と比較した。偏波強度の半径方向の広がりが、全強度のそれよりも広いという特徴的な偏光パターンをこの天体で見出した。これが、高い中心密度を持つ磁気フィラメントで実現される、中心に引き絞られた磁場形状に対応して生じることを見出した。 (3) 磁気流体力学計算の結果から、Goldreich-Kylafis効果を予測し偏光パターンを求めるシミュレーションについて、計算方法の概略を確定した。ストークスパラメータI、Q、Uの輸送方程式を解くには、空間各格子点ごとに局所的な磁場の方向で決まる局所座標系を導入し、そこに座標変換しながら積分することが必要なため、また、回転量子数Jのみならずその磁気量子数Mを区別した非局所熱平衡輻射輸送を解くため、想定よりも計算量が大きくなることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Goldreich-Kylafis効果の直接計算、つまり、3次元モデルについて、磁場中の分子の磁気量子数込の回転順位の非局所熱平衡の計算を行うために必要な手法を検討してきた。その結果、これまでの、磁気量子数を含まない非局所平衡輻射輸送計算に比較して、 (1) ストークスパラメータI、Q、Uの3つに関する輻射輸送を解くためには、局所的な磁場方向によって変化する、各格子点ごとに局所的な座標系に移りながら、積分してゆくことが必要である。 (2) 磁気量子数を考慮することで、考えるべき総準位数は、回転準位0からJまででJ+1個から、(J+1)の2乗個に増加する。釣り合いの連立方程式の次元が同様に増加する。 (3) 空間格子ごとに計算すべき吸収係数、放射率等の量が準位の分だけ増加する。 という特徴がある。以上のような計算量の増加に対応するためには、より高度の並列化が必要であり、それに時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
星間フィラメントの平衡形状とその観測的可視化について、ダスト熱輻射の偏光については、口径15mΦのJCMT望遠鏡による観測と理論的な偏光予測を比較し、フィラメント内部の磁場構造を推定することができるようになった。これを追求するとともに、Goldreich-Kylafis効果のシミュレーションコードの完成を目指す。計算量の増大に対して、より高度の並列化により、計算時間を圧縮する方策で望む。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19による感染状況により参加を予定していた国際会議等が延期となり、計上していた旅費等を使用することができなかった。
次年度使用額については、国際会議等において、成果の一部(ダスト熱輻射の偏光から予測される3次元的星間磁場形状について)を発表するための旅費等として使用予定である。
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