本研究課題は、星形成過程の磁場変化を観測的に明らかにすることを目的とする。星間磁場の形状は磁場に整列した星間ダストによって生じる直線偏光を利用して探索されるが、この整列したダストによる偏光以外の効果、すなわち、磁場中の星間分子のZeeman分裂した順位間の遷移によって生じる分子線の直線偏光であるGoldreich-Kylafis効果をも測ることで、磁場の形状に迫ることを目標とした。 (1) 近年注目を集めている磁場をもつ星間フィラメントの力学構造とその観測的特徴について検討した。星間ガスを等温および、密度上昇とともに低温化する状態方程式の場合について静水圧平衡解を調べた。等温に比べ後者の状態方程式がフィラメント内部で観測される半径方向の密度分布をよりうまく説明する結果が得られた。 (2) この解が、磁場に整列したダスト起源の熱輻射によってどのような偏光パターンで観測されるかを予測し、星形成の兆候のないフィラメント(NGC1333)に対するJCMT望遠鏡波長850μmによる観測と比較した。偏波強度の半径方向の広がりが、全強度のそれよりも広いという特徴的な偏光パターンをこの天体で見出した。これが、高い中心密度を持つ磁気フィラメントで実現される、中心に引き絞られた磁場形状に対応して生じることを見出した。 (3) 磁場を持った2本の同一フィラメントが正面衝突する過程を磁気流体力学シミュレーションで調べ、衝突により合体したフィラメントが磁気的に超臨界となることが星形成の条件となる結果を得た。 (4) 磁気流体力学計算の結果から、Goldreich-Kylafis効果を予測し偏光パターンを求めるシミュレーションについて、計算方法の概略を確定した。回転量子数Jのみならずその磁気量子数Mを区別した非局所熱平衡輻射輸送を解くため、想定よりも計算量が大きくなることが明らかになった。
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