研究課題
本研究の目的は、惑星誕生の場である原始惑星系円盤に含まれるさまざまな揮発性物質の雪線(昇華が起こる軌道)がどのように時間進化し、固体の成長や惑星の形成にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを通じて、近年の天文観測で発見された原始惑星系円盤の多重リング構造と惑星形成との因果関係を解明することである。今年度はその基礎として、円盤ガスと磁場との相互作用と中心星からの照射という2つの現実的な加熱プロセスを考慮した円盤の温度構造進化モデルを構築した。このようなモデル構築は以前から取り組んできたものであるが、今年度は現実的な中心星進化モデルを我々の温度進化モデルに取り入れ、中心星照射光の強度(光度)の時間進化とともに雪線がどのように移動するかを正確に計算できるようになった。また、原始惑星系円盤における雪線の進化モデルを検証する取り組みの1つとして、小惑星セレスのアンモニア化層状珪酸塩の起源に関する理論研究を行った。太陽系最大の小惑星セレスには表面にアンモニアを含んだ岩石(ケイ酸塩)が存在することが近年の探査機Dawnによる探査からわかっている。この事実は、原始セレスが原始太陽系星雲(太陽系のもととなった原始惑星系円盤)の中で形成された際に、少なくとも一時的にアンモニア氷の雪線より外側に存在していた可能性を示唆している。我々は、温度および密度が時間進化する原始太陽系星雲の中で原始セレスがアンモニア氷を捕獲する過程を数値計算した。その結果、星雲の初期質量および乱流の強さがある一定の範囲にあれば、探査機による観測と整合的な量のアンモニア氷がセレスに供給されることを明らかにした。この研究は、原始惑星系円盤の中の雪線の移動理論を太陽系小惑星の観測事実から検証することに取り組んだ画期的な研究である。本研究成果は国内・国際会議で発表済みであり、国際誌への論文投稿を準備中である。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究実施計画では、原始惑星系円盤の温度構造進化モデルとダスト進化モデルを組み合わせ、雪線の進化とダストリング形成を同時に計算することを目標に掲げていた。温度構造進化モデルについては中心星の進化を考慮したものが完成したものの、これをダスト進化計算に組み込む作業が未完である。一方、翌年度以降に実施する予定であった、原始惑星系円盤の中での雪線進化がダスト捕獲を通じた天体成長に与える影響の解明については、前倒しで成果を得ることができた。以上を総合すると、研究課題はおおむね順調に進展していると評価できる。
原始惑星系円盤のダストリング形成と温度構造進化を同時に計算するモデルの完成に全力を挙げる。また、進化する円盤の中での微惑星形成や固体天体形成のモデルの開発も進めていく。上述の小惑星セレスのアンモニア化層状珪酸塩の起源に関する研究成果については国際誌への出版を急ぐ。研究推進の加速のために、本研究課題の助成金を用いて研究員を1名雇用する予定である。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により複数の国内・国際出張がキャンセルとなったことなどの理由で次年度使用額が発生した。この繰越金は研究を推進するための研究員の雇用に充てる予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 3件、 査読あり 11件) 学会発表 (36件) (うち国際学会 14件、 招待講演 7件) 備考 (1件)
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