研究課題
惑星形成に対して最も大きな影響を与える水(H2O)雪線前後におけるダスト進化について検討を行った。H2O雪線の内側では氷を含んだダストの解体と岩石ダストの堆積が起こる一方、外側では水蒸気の再凝縮による氷ダストの成長が起こる。これらの効果はそれぞれ、岩石質微惑星および氷を含む微惑星の形成を引き起こす可能性がすでに指摘されている、本研究では、H2O氷の昇華・凝縮などの一連の効果を取り入れたダスト進化モデルを用いて、どのような条件のもとで岩石微惑星の形成と氷微惑星の形成がそれぞれ起こるかを体系的に明らかにした。本研究の成果を論文2編が国際学術誌に掲載された。また、原始惑星形成円盤の将来の電波観測から雪線付近でのダスト進化の理論をいかにして検証すればよいかも検討した。次世代のミリ波・センチ波大型電波干渉計ngVLAでは、H2O雪線の解像に十分な解像度が達成されると期待されている。本研究では、この次世代電波望遠鏡を用いて、H2O雪線前後でのダストの堆積や、H2O雪線の位置を決める円盤温度構造を観測的に捉えるための具体的な方法論を考案し、観測シミュレーションによってその実現可能性を実証した。本研究の成果は複数の国内学会で発表済みであり、国際誌への論文投稿を準備中である。本研究は国内の電波天文学コミュニティにおけるngVLAのサイエンス検討の一環として行ったものであり、サイエンス検討の結果をまとめた電子記事ngVLA-J memo seriesに本研究の結果の一部が収録されている。加えて、昇華点付近における氷の結晶化実験に関する共同研究(本研究は氷の結晶化が雪線前後におけるダスト進化に与える影響の検討を担当)や、隕石の組成と雪線の理論モデルを組み合わせて隕石母天体の形成位置を推定する試みなど、当初計画を発展・補完させるような新しい共同研究も進展し、関連論文の投稿・掲載決定に至った。
2: おおむね順調に進展している
上で述べた通り、今年度は雪線前後の惑星形成過程の解明および観測可能性の検証の両面において研究が進展した。また、本研究を発展させるような新しい共同研究も進展し、論文化に至っている。
昨年度から継続して行ってきた、雪線におけるダストリング形成と温度構造進化を同時に計算するモデルの構築については、計算手法の慎重なテストが終了し、雪線がダスト進化に伴い周期的に移動する現象を発見した。この現象はこれまで知られていなかったものであり、雪線前後でのダスト進化・惑星形成の従来理解に対して大きく修正を迫る可能性がある。最終年度は、この新現象のより深い理解を慎重に進めながら、雪線におけるダストリング形成・惑星形成の描像の完成に全力を挙げる。
新型コロナウイルス感染症の流行のため複数の国際会議参加がキャンセルとなったため次年度使用額が生じた。翌年度に海外の国際会議への参加が可能になればその参加費として使用するが、これが見込めない場合は研究加速のためのRAを雇用することなどを検討する。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
The Astrophysical Journal
巻: 907 ページ: article id.80
10.3847/1538-4357/abd0fa
Astronomy and Astrophysics
巻: 646 ページ: article id.A14
10.1051/0004-6361/202039894
巻: 646 ページ: article id.A13
10.1051/0004-6361/202039705
巻: 901 ページ: article id.171
10.3847/1538-4357/abb088
https://www.titech.ac.jp/news/2020/048057.html