研究課題
本研究では、衛星搭載装置による観測などの低背景環境における光分散型の分光観測において、スペクトル形状の決定精度を改善する方法を開発する。光分散型分光器 (分光素子で分散した光をアレイ検出器で受けるタイプ) のデータを解析する際には、(a) 分散光イメージから暗電流や背景放射等のスカイを差し引き、(b) 装置の感度 (波長依存性) を補正する。本研究では、主に低背景放射環境である衛星からの観測において (a), (b) それぞれの精度向上を図り、実際の観測においてスペクトル形状を精度よく決定する方法を確立する。今年度は、検出器の各ピクセルの感度の高精度化に関する研究にて大きな進展があった。実験室にて赤外線アレイ検出器の各素子の感度の波長依存性 (波長感度特性のピクセル依存性) を測定するために、常温部に設置した市販のフーリエ分光器からの出射光を、窓を通してクライオスタット内の冷却したアレイ検出器全面に照射する実験を行い、「あかり」衛星で用いられたのと同型のSi:As検出器256x256素子の波長感度特性を測定し、投稿論文にまとめた (Tsuchikawa et al. 2020, accepted).
2: おおむね順調に進展している
赤外線アレイ検出器の各素子の感度の波長依存性 (波長感度特性のピクセル依存性) の測定方法の開発において、十分な進展があったため。
検出器実験に関しては、さらなる課題 (スペクトル光源として利用しているフーリエ分光器の瞳の波面精度がアレイ検出器の各ピクセルへの入力光スペクトルの一様性に効いてくる) に対応すべく、実験装置を改良する。また、今年度以降は、分散光イメージから暗電流や背景放 射等のスカイを差し引き精度向上に関しても注力する。これには「あかり」衛星の全較正データを利用する。「あかり」の検出器は数年に渡って様々な温度環境で運用されていた。暗電流レベルは検出器温度依存性が大きく、観測していた瞬間の暗電流量を精度良く推定することが鍵になる。衛星に搭載していた アレイ検出器の各素子について暗電流の温度依存性を求め、このデータを基に、ターゲット天体を観測した瞬間の温度のダークフレームを精度 良く推定して、データ処理に用いる方法を確立する。スペクトル形状が既知の標準星の観測データを利用して、この手法の精度を検証する。
検出器実験において、前年度までに構築した実験設備を効率よく流用でき、新たな出費を抑えることができたため。ただし、実験の結果新しく出てきたさらなる課題 (検出器実験の光源として利用している、フーリエ赤外線分光器の瞳を理想的な波面にする) に対応するために、来年度、フーリエ分光器の部品改良に利用する。
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Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: 72 ページ: id. 5
10.1093/pasj/psz123
巻: 71 ページ: id. 123
10.1093/pasj/psz110
巻: 71 ページ: id. 95
10.1093/pasj/psz078
The Astrophysical Journal
巻: 883 ページ: 180~180
10.3847/1538-4357/ab3d26