本研究では、低金属量の低中質量星の進化と核種合成過程の解明を通して、初期宇宙における元素の起源、星・連星系から銀河に至る構造形成とその進化の解読への手掛かりを開拓してきた。宇宙初期の研究では、従来大量のフォトンと核種をもたらす大質量星を中心に論じられてきた。しかし、これらの大質量星は超新星爆発で消滅、観測できなくなるのに対し、中低質量星は、連星系で現在に生き残る低質量の伴星にその進化と核種合成さらには誕生当時の初期宇宙の物理状態の痕跡をとどめるという、大質量星では得られない利点を持っている。 これまで、超金属欠乏(EMP)星での中性子捕獲元素合成過程について、ヘリウム対流層への水素混合に伴う独自性を解明、炭素過多超金属欠乏 (CEMP) 星から観測されるs-過程とr-過程の中間の [Eu/Ba] 元素比について、その生成機構を明らかにしてきたが、本年度は、これと従来のB2FH (1957) によって定式化された中性子捕獲核種合成の理論との関連を明確にし、核種合成理論に新たな側面を付すことができた。前者は論文投稿中であり、現在その続編を執筆中である。 低中質量の連星系については、CEMP 星に刻印された炭素、s-過程元素の組成分布の特性から、初期宇宙に於ける形成過程を議論してきたが、それには、ヘリウム層で合成した炭素とs-過程元素の放出が不可欠である。このAGB星からの質量放出については、現在の宇宙でのみで観測可能であり、鹿児島大の観測グループと共同で、AGB星の最終局面であるミラ型変光星の観測から、質量放出機構としては、進化の最終段階で水素とヘリウムの電離で励起される動的不安定によることを明らかにした。この過程は、金属量に依らないため、EMP 星でも可能である。これによって、宇宙における炭素およびダストの形成史の解明への道を切り開ける。これらの研究は今後の課題である。
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