研究実績の概要 |
生命にとって重要な水・大気は, 火星でどのように生成・循環・消失しているのか. これまでの全球的かつ長期平均的な理解では不十分なことが最新の探査結果から明らかになりつつある. 本研究では最新の探査機データと地上観測データを比較惑星学的に統合解析することで, 宇宙散逸可能な高度までH2O・CO2をどのように効率的かつ高速に輸送するかというこれまでの視点にはなかった新たな学術的問いの解決を目指す. (1)下層における水・ダスト層の生成過程:これまで申請者らが開発を進めてきたモンテカルロ法によるエアロゾル多重散乱高速放射計算コードJACOSPAR火星版をMEX/OMEGAの膨大な大気リム観測データに適用することで, 特に観測が困難であった高度0-20kmにおける水蒸気・ダスト遊離層の生成過程を明らかにするためのデータベース構築準備を進めた。 (2)中層・上層への水・ダストの輸送・発達過程を最新の探査機データを組み合わせて下層大気現象が水蒸気輸送および超高層大気へ影響を及ぼしうる描像を明らかにした(Nakagawa et al., 2020a)。(3)大気波動を介した水・ダスト輸送メカニズムの理解のため, 探査機データを解析し得られた密度・温度の擾乱成分を調べ、その季節・地域性を明らかにした(Nakagawa et al., 2020b)。乱流拡散係数を推定するため均一圏界面高度の変化を調べ, 下層大気現象に伴って大きく変動しうる様子を捉えた(Yoshida et al., 2020)。大気上下結合に重要な中間圏観測を推進すべく, 申請者が開発を進めてきた赤外ヘテロダイン分光器を用いた地上観測を実施し, 水蒸気が高高度輸送される大砂嵐時に高速東風が加速される様子を初めて明らかにした(投稿済み). (4)宇宙散逸する大気組成への影響を調べるため, MAVEN/NGIMS解析により宇宙散逸可能な高度の大気組成が下層大気現象で大きく変化しうる様子を明らかにした(投稿済み).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)下層における水・ダスト層の生成過程についてはデータベース構築にこぎつけたものの物理的解釈に必要な放射コード開発が完成していない. (2)中層・上層への水・ダストの輸送・発達過程を最新の探査機データを組み合わせて下層大気現象が水蒸気輸送および超高層大気へ影響を及ぼしうる描像を明らかにし論文に成果をまとめることができた. (3)大気波動を介した水・ダスト輸送メカニズムの理解のため, 探査機データを解析し得られた密度・温度の擾乱成分を調べ、その季節・地域性を明らかにした成果を学術論文に出版することができた。乱流拡散係数を推定するため均一圏界面高度の変化を調べ, 下層大気現象に伴って大きく変動しうる様子を捉え成果を学術論文に出版することができた。大気上下結合に重要な中間圏観測を推進すべく, 申請者が開発を進めてきた赤外ヘテロダイン分光器を用いた地上観測を実施し, 水蒸気が高高度輸送される大砂嵐時に高速東風が加速される様子を初めて明らかにした. (4)宇宙散逸する大気組成への影響を調べるため, MAVEN/NGIMS解析により宇宙散逸可能な高度の大気組成が下層大気現象で大きく変化しうる様子を明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに得られた成果を学術雑誌に投稿できるように整理しつつ, 進展が期待どおりに至らなかった項目については鋭意推進する. 特に, (1)放射コード開発の完遂とデータベースとの比較による表層付近の水・ダスト層の生成過程の解明, (2)水蒸気に加え物質輸送を明らかにすべく高高度ダスト変動の解明, (3)(4)大気波動が超高層および散逸に与える影響を明らかにし, 昨年度得られた成果と統合することで表層から超高層までの総合的な理解を目指す.
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