本課題は小惑星ベスタにおける大規模衝突の痕跡をHED隕石の年代測定を通して検証することを目的とした。HED隕石に含まれているジルコンのU-Pb年代はそのほとんどが地殻形成年代である4550Ma付近の年代を示す。しかし、Camel Donga隕石のジルコンで4520 Ma付近の年代が報告されており、この年代は石鉄隕石メソシデライトから示されたベスタの大規模衝突の年代とよく一致するため、HED隕石のジルコンにも大規模衝突の年代が記録されている可能性が示されていた。しかし、本研究でのCamel Donga隕石のジルコンの高精度U-Pb年代では4520Ma付近の年代は全く検出されなかった。この原因については従来の分析手法の問題が考えられるが、本研究における分析試料数の少なさ(9粒子)の可能性もあるため、より多くのHED隕石の高精度U-Pb年代分析の実施が重要である。本研究ではHED隕石の極微小ジルコンの高精度U-Pb年代分析法を世界で初めて確立したが、より多くの隕石試料に適用するために実験環境の整備を進めていきたい。 一方で、予定していたHED隕石の全岩Pu-Xe相対年代測定では年代に伴う誤差が大きいことに加え、砂漠隕石への適用が困難であるという理由で、近年実用化されつつあるNb-Zr相対年代測定を用いることにした。Nb-Zr相対年代測定では、ルチルが最も年代測定に適した鉱物である。通常の鉱物アイソクロン法では、複数の鉱物種を用いているが、本研究では高精度な年代を得るため、ルチルのみでのアイソクロン年代を得ることを目的に実験を行った。結果として、HED隕石の中にもルチルが含まれてることを初めて発見し、数粒ごとに溶解することで、Nb/Zr比の異なる複数のフラクションを作成することに成功した。今後これらの試料のZr同位体比を分析し、Nb-Zr相対年代測定を得ることを予定している。
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