一昨年度ならびに昨年度は、新型コロナウイルス感染症の発生及びその拡大に伴う国内旅行及び海外渡航自粛の影響により、国内・海外の共同研究者との直接の打合せが困難であった。そのため今年度は、これら共同研究者との打ち合わせを追加で実施すると共に、必要と思われる追加的な解析を実施した。 先行研究であるNoguchi et al. [2017]では、大気波動によって生じたCO2過飽和の発生頻度に経度依存性があることが示されている。一方で、地表面に存在する極冠にも、経度的に偏った分布が観測されている。そこで、米国の火星探査機MRO搭載の熱赤外センサMCSによって観測された地表面の極冠温度データとの比較を実施することとした。 MGS電波掩蔽観測による気温データは、地表面から高度1km程度が最下端となることが多いため、そのままでは地表面温度との比較ができない。そのため、地表面まで気温を高度で外挿することで、地表面付近の気温とすることとした。 その結果、南極極夜及びその前後において電波掩蔽観測で得られていた地表面付近の気温と極冠温度との間には、明確な相関があることがわかった。極夜の明ける春分(Ls=0°)付近までは、その差は数K程度であり、ほぼCO2凝結温度を保っていた。観測誤差なども考慮すると、極冠とその直上の気温は同程度であったと思われる。一方で、春分を過ぎて極夜が明けると、極冠温度と比べて地表面付近の気温は速やかに上昇していた。 極夜において、極冠温度と地表面付近の気温には明確な相関があり、その温度がほぼ一致してCO2凝結温度付近になっていることから、極夜においては地表面付近では大気が直接地表面に凝結している可能性が示された。
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