研究課題/領域番号 |
19K03954
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研究機関 | 北海道情報大学 |
研究代表者 |
柿並 義宏 北海道情報大学, 情報メディア学部, 准教授 (00437758)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 宇宙天気 / カスプ / 熱圏大気密度異常 / 観測ロケット / 化学物質放出 / バリウム / ストロンチウム / スバールバル諸島 |
研究実績の概要 |
宇宙に対して地球磁場が開いているカスプ領域で,高度400 kmの熱圏で中性大気密度が周囲より高い場所が見つかった.熱圏は人工衛星が飛翔する高度であるため,未知の中性大気密度変動は人工衛星軌道の予測に大きな影響を与え,衛星事故につながる可能性がある.同時観測で,強い沿磁力線電流が観測されているため,電磁気的な作用により引き起こされていると考えられている. 主な要因として考えられているのが降下電子によるジュール加熱増加,カスプからのイオン流出によるジュール加熱,粒子による直接加熱とジュール加熱とそれらの組み合わせなどであるが,それらを考慮しても地球全球モデルでは十分な中性大気密度の上昇を得られていない.領域を限ったモデルでは再現されるものの,通常観測されるものより大きな電場を要求されるという問題点がある.一方, 100 km以下の小さなスケールの電場揺らぎを与えて得られるジュール加熱により,観測に合致するような中性大気密度上昇が再現されることが示された.この仮説を実証するためには小さな電場揺らぎと中性大気風を計測する必要がある.そのためのロケット実験が2019年11月に計画された.このロケット実験は2つの国際共同観測プロジェクト(the Cusp Region Experiment 2, 以下CREX-2およびthe Joint Japan-U.S. Cusp Heating Investigation,以下CHI)で構成され,どちらの実験もバリウム(Ba)ガス・ストロンチウム(Sr)ガスをロケットから放出する.Baガスはすぐに電離してバリウムイオン(Ba+)となる.それらのガスは太陽光を受け,共鳴散乱する.それら発光雲の軌跡を地上から観測することにより中性大気風およびプラズマドリフト速度が計測できる.観測条件を満たさなかったこと,天候不良のためCHIのみ実施された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
Baは太陽極端紫外光を受けイオン化し,Ba+が614.2nmで発光し,Srは中性のまま460.7 nmで発光する.確実に目的のガスを捉えるため,観測用カメラにバンドパスフィルタを取り付ける必要があるため,新たにBa+およびSr用のバンドパスフィルタを開発した.また,観測を成功させるためにはカメラの露出とISOを適切に設定する必要がある.開発したフィルタと新規に導入したカメラで観測できる明るさの絶対光度を検定するために国立極地研究所の積分球を用いて,校正実験を実施した.この結果と2014年に実施した同様のBa/Sr放出実験の基礎データをもとに観測計画を策定した.
CHIがスバールバル諸島・ニーオルスン,CREX-2がノルウェー・アンドーヤから観測ロケットを打ち上げる予定であった.観測ロケットの打ち上げ可能期間は2019年11月25日~12月9日まで設定されていたが,観測条件・天候条件が合わず,どちらの実験も実施できなかった.急遽,2日間の延長が決まり,CHIのみ12月10日に実施され,発光雲の観測に成功した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の主目的である観測ロケットCREX-2は2021年11月に延期された.2021年には再度ノルウェーを訪れ実験に参加する予定である.そのため,当初予定になかった旅費を確保する必要がある.そのため当初計画していた国際学会への参加などを取りやめ,実験参加の資金を確保する.CHIでは観測に成功した.この実験のデータを解析し,解析手法の確立し,2021年の実験終了後,速やかに解析を行える準備を整えるとともに,観測データ品質向上の手法をさらに検討し,次の実験で良質のデータを取得できる準備を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
観測参加にあたり負担する必要のあった経費を一部負担しなくてよくなったため,余りが生じた.ロケット実験が2021年に延期されたため,この予算は延期されたロケット実験時の経費として利用する予定である.
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