研究課題
固体天体上に隕石のような天体が衝突すると,衝突クレータが形成される.その際掘削された物質が放出される(放出物はイジェクタと呼ばれる) が,その放出角度を決定する機構は衝突探査によって天体の表層・内部状態を推定するうえで必要であるが,十分理解されていない.本研究では,衝突数値シミュレーションを通じて,衝突掘削物の放出角度が衝突・標的環境条件にどう依存するかを明らかにしてモデル化する.2019年度においては,衝突シミュレーションを行う準備として,計算機上において多数の粒子(~100 万個)を重力・粒子間付着力を変化させてランダムに降り積もらせることで,様々な空隙率・強度をもつ衝突標的を形成した.また,衝突シミュレーションと比較するデータの解析についても進めた.一つは,Deep Impact ミッションにおける彗星への衝突実験で生じたイジェクタについて,その画像を研究協力者と共に解析した.もう一つは,小惑星探査機「はやぶさ2」搭載の衝突体による衝突実験を行い.その画像を解析した.「はやぶさ2」プロジェクトにおいては,小惑星リュウグウに衝突体を衝突させ,人工的に衝突クレータを形成するとともに,分離カメラによってイジェクタ放出過程が撮像された.衝突領域の衝突前後の様子が母船からも撮像され,クレータが同定された画像も含めて一連の画像を解析することで,リュウグウ表層の物性ならびにイジェクタ放出の具体的なデータを得られるにいたった.これらは2020年度以降の衝突シミュレーションを行っていくうえで貴重な参照データとなる.
2: おおむね順調に進展している
2019年度はシミュレーションの下準備に当てており,それが概ねできていることから,計画は当初通り進められていると判断する.また,「はやぶさ2」における本物の小惑星上での衝突実験を成功させその貴重なデータを得て解析が進められたことは,今後のシミュレーションを進めていくうえで,大変参考になると考えられる.
2020年度以降は,形成された標的に対して様々な衝突速度・衝突体(サイズ,密度)を衝突させるシミュレーションを実行していく.シミュレーション結果の解析においては,掘削流をはじめ圧力・密度分布等も可視化し,圧縮・非圧縮領域の把握やそれによる粒子の運動制約など物理的描像を明確にしながら,Z-モデルとも比較しつつ,そのパラメータ依存性を明らかにする.また,イジェクタ放出角度については既存の室内衝突実験結果や「はやぶさ2」などの宇宙衝突実験で得られたデータとも比較することで,結果の妥当性を確認する.
COVID-19のパンデミックにより海外含め学会・研究会参加が難しくなったため,旅費として計上していた経費が不使用となった.これらは次年度以降の旅費に回すこととする.
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