研究課題/領域番号 |
19K03956
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研究機関 | 鹿児島工業高等専門学校 |
研究代表者 |
池田 昭大 鹿児島工業高等専門学校, 一般教育科, 准教授 (90582833)
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研究分担者 |
吉川 顕正 九州大学, 理学研究院, 准教授 (70284479)
藤本 晶子 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 助教 (40578803)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シューマン共鳴 / 太陽活動 / 電離圏 / フレア |
研究実績の概要 |
太陽フレアや太陽プロトンイベント(SPE)は地球電離圏の環境を激変させ、GPS測位誤差や人工衛星の寿命低下など宇宙災害の原因となる。このような宇宙災害回避のため、本研究では、地上磁場変動に現れる約8.0Hzのシューマン共鳴(SR)を用い、SRの応答から下部電離圏の変動を調査する。さらに、基礎研究と共にシステム開発の面から、電離圏モニタリングシステムを構築する。 令和2年度は、大分県久住町の長期間にわたる誘導磁力計データから、太陽フレアとSPEに対してイベントの解析を実施した。数例の解析ではあるが、フレア時の太陽X線増加に対して、SRのH成分(北向き成分)周波数の増加が確認された。フレア時に電離圏下部の電子密度が増加し、SRが反応したと解釈できる。さらにSRの変動から、電離圏下部の電子密度の変化の割合を見積もることができた。一方SPEでは、プロトンフラックスの減少にシューマン共鳴D成分(東向き成分)の周波数の減少が確認された。SPE時に極域に振り込んだプロトンが、高緯度電離圏の高度を押し下げ、D成分のSR周波数を減少させたと解釈できる。低緯度(久住)の磁場変動に現れるSRは、H成分が主に低緯度電離圏の情報を含み、D成分が高緯度電離圏の情報をよく反映するという事も明らかにできた。モニタリングツールという観点からも、SRの実用性を示すことができた。 また、電離圏モニタリングシステムの開発のため、大分県久住町の誘導磁力計データの保守作業も行っている。現在、誘導磁力計データのデータ転送オンライン化を進めており、これに伴うデータロガーの新規設置を計画していたが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、現地での設置作業は進まなかった。データロガーのセットアップなどについては終えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度までの活動によって、大分県久住町で観測されるシューマン共鳴(SR)は、その日変化が主に雷活動の活発な地域(北南米、東南アジア、アフリカ)と対応してピークを持つことが分かった。また、ローカルな雷活動の影響も現れることなどが分かり、全世界の雷活動やローカルな雷活動のモニタリングとしてもSRを用いることができる可能性が示唆された。さらに、太陽フレア、SPE(太陽プロトンイベント)についても、SRがよく反応することがわかり、宇宙災害の観点で重要な現象に対しても、SRの有用性を示すことができた。 ただし定量的な調査をするためには、SRの背景変化を除去する必要があるため、引き続き経験モデルの構築を進めている。経験モデルを構築するために、これまでに本研究で明らかとなった、SR変動の1年周期や半年周期の周期性をモデルに組み込む必要がある。 また、本研究ではSRを用いた電離圏モニタリングシステムを構築するため、久住町の誘導磁力計データのオンライン化を進めている。令和2年度までの活動により、久住観測点のオンライン化に向けたデータロガーの準備などはできたが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、研究代表者の県境をまたぐ出張が困難であり設置作業が滞っている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、大分県久住町のシューマン共鳴(SR)の変動特性が明らかになった。また、数例ではあるが、太陽フレアとSPE(太陽プロトンイベント)に対してSRがよく応答することも分かり、これらの現象が発生した際の電離圏下部の電子密度の変化も推定可能となった。令和3年度、令和4年度は、経験モデルの作成を進め、太陽フレア、SPEに対して、定量的な議論ができるよう研究を進める。定量的な議論により、太陽フレアやSPEに対する下部電離圏の電子密度の変化の割合をより詳細に推定できるようになる。また、解析するイベント数を増やすことにより、下部電離圏の応答について傾向を見出す。これらの調査により、SRを通した下部電離圏の応答の調査を進める。 モニタリングシステムの開発では、新型コロナウイルス感染拡大の影響により設置作業などにやや遅れが生じているが、感染状況を注視しつつ現地作業を検討する。また、リモートで可能な作業や、データを受信するシステムの構築など、現地作業以外のシステム開発作業を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、学会発表がオンラインで行われたことや観測器保守・設置作業が延期となったことにより、主に旅費の執行が無くなったため。
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