研究課題
地球を始めとする惑星の形成過程を知るためには、若い星や原始惑星系円盤の進化過程を詳しく調査することが重要である。本研究では、若い星の高分散分光観測を行うことで、前主系列星や原始惑星系円盤の物理状態を正確に求め、その進化に詳しく解明することである。前主系列段階にある星は、原始惑星系円盤からの質量降着で成長するが、質量降着率がまれに3桁程度上昇し急激に明るくなる。このような星はFU Ori型星と呼ばれる。星はその成長過程で質量降着率が増加するフェーズを数回経験するが、その増光過程や増光時の星及び原始惑星系円盤の物理的変化はまだ詳しく明らかになっていない。本年度は、FU Ori型V960 Monの高分散分光観測を行った。FU Ori型アウトバーストが起こった直後から明るさが減衰する過程で、中心星と原始惑星系円盤にどのような変化が起こったかを調査した。増光直後は約3等級の増光を見せたV960 Monは、その後5年ほどでおおよそ1.3等暗くなった。この減光の過程で、V960 Monのスペクトル中に見られる吸収線は、その強度が変化するとともに吸収線の輪郭も変化し、広がったプロファイルと細いプロファイルが現れるようになった。FU Ori型星のスペクトルは一般的に質量降着率が増大した原始惑星系円盤の円盤大気からのスペクトルが支配的であるが、V960 Monの場合は減光とともに中心星スペクトルが見られるようになったことが、モデルスペクトルを使用した解析から判明した。この中心星成分から、中心星の有効温度や表面重力を決定した結果、増光する前後で大きく変化していないことが明らかになった。一方で、円盤大気スペクトルの変動からその有効温度が低下していることが判明した。このように、FU Ori型星の中心星と円盤大気スペクトルとを分離し、それぞれの物理的変化を明らかにすることができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究のテーマの一つであるFU Ori型星の中心星および原始惑星系円盤の物理的変化を明らかにすることができた。この研究結果は今後論文として発表する。
これまでの研究成果として、前主系列星に付随する原始惑星系円盤の進化タイムスケールは、星形成領域ごとに異なることがわかっている。この原因を明らかにすることで、円盤散逸過程を司る要因を明らかにすることができる。今後は、へびつかい座分子雲に属する前主系列星の物理量決定を高分散分光観測から行う。分子雲に深く埋もれた若い星を近赤外線にて観測し、そのスペクトルを得ることでその進化段階を明らかにする。これを、分子雲外縁部にある若い星の進化段階と比較することで、へびつかい座の周辺にある大質量星からの輻射が円盤散逸過程に及ぼす影響を解明する。
参加予定だった学会の現地開催が困難になるなどの事情により、旅費を計画通り執行することができなかった。次年度使用額として生じた資金は翌年度以降の国際研究会の旅費や論文投稿費用として使用する。
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