研究課題
本研究では、研究代表者が行う予定の、はやぶさ2帰還試料の初期記載において、地球物質汚染回避環境下で可視・近赤外域の反射分光測定を行い、C型小惑星リュウグウ表層物質試料からの直接的な有機物、水の検出を目的とする。帰還試料の分光測定用のクリーンチャンバーおよび分光測定装置については、プロジェクト予算で整備されるが、測定感度の校正や測定精度の向上については、研究代表者が開発を担当する。予測される帰還試料の反射率は2%程度であり、特徴的な吸収バンド強度も2%程度と低いため、測定精度向上が必要である。そのため、標準反射体の開発と、標準光と測定光の強度を同程度にする工夫などを行う必要がある。具体的には、標準反射体として一般的なスペクトラロンやインフラゴールドの測定の際に、光学系の途中に金属メッシュを入れるなどして、光量を減衰させて測定し、絶対反射率の低いサンプルの測定時には金属メッシュなしの状態で測定する。このことにより、検出器に届く光量を同程度にすることができ、高いS/Nでの測定が可能になる。今年度、模擬試料を用いて測定を行ってみたところ、金属メッシュを適切に選択することにより、検出器に届く光量を同程度にすることが可能であることが確認できた。しかし、金属メッシュによる減衰には波長依存性があることが明らかになったため、高い測定精度を実現するためには、金属メッシュ挿入による減衰スペクトルをあらかじめ測定しておく必要があることが分かった。また実際の帰還試料の測定の際に用いる試料容器に試料を設置して反射スペクトルの測定を行ったところ、試料の飛散防止のためのガラス製の蓋の影響があることも判明した。次年度は、このような実際の測定で起こり得る問題点に対処して、本番の帰還試料の測定に備える予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
標準反射体の選定として当初候補に挙がっていたインフラゴールドが帰還試料を地球物質汚染回避環境下で取り扱うためのクリーンチャンバー内に導入可能であると判断されたことにより、次年度実施予定であった標準反射体と低反射率の帰還試料の測定の際の検出器に届く光の光量を同程度にするために工夫の検討を前倒しして取り掛かることができたため。
引き続き標準反射体と低反射率の帰還試料の測定の際に検出器に届く光の光量を同程度にするための工夫を検討する。確立した測定手法を本番の測定を模擬したリハーサル試験で実施し、測定方法の習熟を図る。帰還試料の実測定を行い、当初の目標であった2%以内の測定精度で帰還試料の反射スペクトルデータを取得し、リュウグウ表層物質試料からの直接的な有機物、水の検出を試みる。
2020年3月に米国ヒューストンで開催予定であった国際会議(Lunar and planetary science conference)がコロナ禍の為中止となったため、それに伴う旅費が不要になり、次年度に繰り越すことになった。国際会議参加の目的は成果発表および情報収集であるが、これについては次年度の別の国際会議にて代替できると考えている。翌年度分として請求した助成金については当初予定通り、スペクトル測定の評価に関連する装置の購入および、スペクトル測定補助の人件費および成果発表等のための旅費として使用する。
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