昨年度に引き続き、黒潮大蛇行と非大蛇行期の海面水温分布の違いが、冬季の大気に与える影響を領域大気モデルWRFを用いた数値シミュレーションで調べた。特に昨年度の結果において日本周辺の降水量に顕著な影響がみられたことから、海面水温の変化に対する大気応答のうち、大気の水収支の変化について詳細な解析を行った。解析の結果、黒潮大蛇行の冷水渦に伴う負の海面水温偏差に対応して、蒸発量は減少し、上空の降水量も減少する。下層の風の場は圧力調整メカニズムが働き高気圧偏差となり発散場になる。しかしながら、下層の水蒸気フラックスの場は発散ではなく収束となり、蒸発量の減少に伴う降水量の減少を弱めるように働く。この水蒸気フラックスの収束・発散についてさらに詳しく調べると、上述の風の発散に伴う水蒸気フラックスの発散よりも、水蒸気移流による収束の影響が大きいことが分かった。またこの水蒸気移流による収束は、黒潮大蛇行に伴う海面水温の変化が下層大気の比湿に影響を与え、それを平均場の風である北西風が移流するにより生じていることが明らかとなった。この結果は国際誌の「Progress in Earth and Planetary Science」誌に受理された。 研究期間全体を通じて、東シナ海とその周辺域での海面水温の長期変動とそのメカニズム、また海面水温変動により生じる大気応答について明らかにすることができ、大気と海洋の両面から現象についての理解を進めることができた。
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