研究課題/領域番号 |
19K03963
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
菅原 敏 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (80282151)
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研究分担者 |
森本 真司 東北大学, 理学研究科, 教授 (30270424)
石戸谷 重之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (70374907)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Age of air / 成層圏 |
研究実績の概要 |
本研究では、気球観測を実施して成層圏大気を採取し、その空気サンプルの様々な成分を分析することで複数の成分から大気年代を正確に推定することを目的とした。このためにJAXA宇宙科学研究所の協力のもと、北海道大樹町における大気球実験を7-8月に実施する予定であった。しかし、世界的なヘリウムガスの枯渇問題が発生し、気球に充填するヘリウムガスと成層圏大気を採取する大気採取装置に用いる冷媒の液体ヘリウムの両者について入手が困難を極めることとなった。液体ヘリウムの入手はできたものの、宇宙科学研究所のヘリウムガスの準備が当初予定よりも大幅に少なくなったため、本研究において予定していた気球実験は実施できなかった。したがって、新たな成層圏大気試料の入手・分析も不可能となった。そこで、研究計画を変更し、気球実験を翌年度実施としてあらためて計画しなおし、これにかかる予算についても当初予定を変更して、その大部分を翌年度に繰り越すこととした。また、この実験計画の変更に伴って、2次元大気数値モデルを用いた大気の年齢と重力分離に関する研究を前倒しで開始し、大気年齢計算のための計算プログラムを改良して、仮想トレーサーを用いて大気年齢を計算できるようにした。また、これまでは仮想的に二酸化炭素の同位体比を用いて重力分離を計算していたが、より正確な重力分離の再現のために、希ガスを用いた計算方法を開発した。これにより、アルゴンなどをその分子に応じた分子拡散係数を用いて計算することが可能となった。また、アルゴンを成層圏大気の年齢の研究に利用できるという新たな研究が海外の研究機関から発表されたことから、マルチクロックトレーサーによる大気年齢の決定に加えて、アルゴンの利用についても新たに展開することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、JAXA宇宙科学研究所の協力のもとに、初年度に北海道において気球実験を実施する予定であった。実験準備は前年度から進めており、順調であったが、世界的なヘリウムガス枯渇問題が発生し、宇宙科学研究所が全ての予定していた気球実験用に十分な量のヘリウムガスを調達することはできなかった。これによって、本研究で予定していた気球実験の実施は結果的に見送られ、次年度に再度計画することとなった。なお、これに伴い、今年度の予算を大幅に次年度に繰り越し、次年度の実験に備えることとした。ただし、当初、実験成功後から開始する予定であった数値モデルを用いたシミュレーションを先行して開始し、次年度以降に研究の遅れを取り戻せるよう研究全体のプランを修正して対応した。その結果、新たにクロックトレーサー以外にアルゴンの重力分離を数値計算に含めることに成功し、これが大気の年齢の研究に極めて有益であることがわかった。この点では、気球実験が延期となったことによる研究の遅れを取り戻し、次年度の気球実験の成功後に従来からの計画しているマルチクロックトレーサーの分析と大気年齢の決定に加えて、アルゴンの重力分離を用いた重力分離と大気年齢との関係に着目した研究を進めるための成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる2020年度は、今年度に世界的なヘリウム枯渇問題によってやむなく延期された北海道における成層圏大気採取気球実験をJAXA宇宙科学研究所の協力のもとに実施する。そのために、前年度にあたる今年度から宇宙科学研究所への共同利用の手続きや実験申請などを開始しており、すでに実験の採択に関する内示を受けている。ただし、大きな課題の一つである世界的なヘリウムの枯渇は昨年に引き続き続いているため、さらに十分な調達のための準備期間を確保し、確実な入手に向けて対策を始めている。また、いくつかの予定されている国内気球実験のなかでも本研究の気球実験の優先度をできるかぎり高めるよう、万全の準備体制で望む。 気球実験が延期になったことにより、本研究の全体計画を組み立て直し、数値シミュレーションを先行して進めており、また過去の保存サンプルの分析も気球実験と平行して開始する。大きな変更点は、複数のクロックトレーサーにより大気の年齢を正確に推定するマルチクロックトレーサーの考え方に、さらにクロックトレーサーではないが大気年齢の推定に利用できるアルゴンを分析項目と数値シミュレーションの両方に加えることで、より多角的な大気年齢の研究を展開することである。アルゴンの大気年齢への利用は最新の研究成果として海外の研究機関からも報告されており、これまでに研究代表者、分担者らが報告してきた重力分離と大気年齢の密接な関係を拡張した研究である。したがって、今後の研究にアルゴンを加えることは極めて有益であるとともに、研究を進める準備・基盤も十分にあり、かつこれに関して本予算からの追加の措置は特に必要ない。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、JAXA宇宙科学研究所の協力のもとに、初年度に北海道において気球実験を実施する予定であった。実験準備は前年度から進めており、順調であったが、世界的なヘリウムガス枯渇問題が発生し、宇宙科学研究所が全ての予定していた気球実験用に十分な量のヘリウムガスを調達することはできなかった。これによって、本研究で予定していた気球実験の実施は結果的に見送られ、次年度に再度計画することとなった。気球実験には主に旅費、液体ヘリウム、物資輸送費などの予算が不可欠であり、当該年度の計画にはこれらを計上していた。このやむを得ない外的な事情による実験延期に伴い、当該年度の予算を大幅に次年度に繰り越し、次年度の実験に備えることとした。次年度には、当該年度に予定していた実験実施に伴う旅費、物品費、輸送費などをそのまま次年度に遅らせて使用する予定である。
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