研究課題
前年度に実施した成層圏大気採取実験によって得られた大気サンプルを使用して、昨年度までに未分析だったハロカーボンの分析を実施した。国立環境研究所の分析システムを用いて、CFCs、HCFCs、HFCs、PFCsの合計15種類の成分について、それぞれの成層圏における鉛直プロファイルを明らかにした。この中で、長寿命の成分のみを用いて平均年代の推定を行い、既存のCO2-age、SF6-ageと比較した。その結果、ハロカーボンによる平均年代は高度25km以下においてはCO2-age、SF6-ageとよく一致した。一方、高度25km以上ではCO2-ageとよく一致したものの、SF6-ageはそれらよりも過大評価であった。SF6による平均年代推定は、より上層の中間圏における消滅の影響を受けていることが示唆されていることを考慮すると、ハロカーボンがマルチクロックトレーサーとして極めて有効であることが明らかになった。インドネシアのビアクで行われたクライオジェニックサンプリング実験による大気サンプルから推定された平均大気年齢の成層圏高度分布について、ACTMを用いたBIER法とラグランジュ後方流跡線解析の二つの方法を適用して検証した。2つの方法による年齢をCO2 ageと比較すると、ラグランジュ法の結果が比較的良い再現性を示した。ラグランジュ法の年齢はやや小さくなるバイアスが見られたが、このことは流跡線計算を一定の有限時間で停止させているためであると考えられる。一方、BIER法の年齢は、高度25km以上においてCO2 ageよりも大きくなっており、モデルの拡散の効果が大きい可能性が示唆された。これらのモデルの結果は、観測された大気サンプルがSF6消失の影響を受けた中間圏大気との混合の影響を受けているために平均年齢が過大評価になっているという仮説を裏付けている。この結果は論文として発表された。
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Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II
巻: 99 ページ: 1149~1167
10.2151/jmsj.2021-056