研究実績の概要 |
本研究では九州西岸を航行する民間定期フェリーに高精度GPSを設置し気象津波の観測を実施する予定だったが、新型コロナウィルスの影響でフェリー観測を中止せざる得なくなった。そこで、船舶と並びグローバルな交通・輸送網を形成する航空機に着目することにした。本報告者が関わった研究[Hirobe et al., 2019]により、航空機に設置されている高度計レーダーを使って津波検知に十分な精度で波高測定できることが示されている。そこで、多数の民間航空機を津波観測のプラットフォームとして使用した場合、どの程度、正確に津波予測ができるか検証を行った。そのために、南海トラフ津波の数値モデルの中で実際の民間航空機の航路に沿って仮想的な波高データを取得し、そのデータからインバージョン解析を行うことで、どの程度、正確に津波予測ができるかを調べた。現在運用されているケーブル型海底圧力計網DONETによる津波予測精度も同様の方法で調べ、両者の比較を行った。 その結果、航空機観測の方が、DONETより迅速かつ高い精度で津波予測ができる可能性が示された。これは二つの要因、①DONETの海底圧力計は地震発生直後の海面波高を捉えられないこと、②移動する航空機は広範囲の波高データを取得できること、が効いている。DONETで十分な精度で津波予測を行うには15分程度の観測時間が必要なのに対し、航空機観測では20機以上の航空機が通行する朝7時から夜21時の時間帯に半分以下の観測時間でDONET以上の精度で予測できることが確かめられた。しかしながら、航空機が10機以下に減る深夜12時から朝7時は、精度よい予測が困難になる。この問題に対処するために、数機の無人航空機を南海トラフの直上を常時通行させ、初期の波高データを効率的に取得できれば、高い精度で津波予測ができることが示された。
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