研究課題/領域番号 |
19K03968
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉森 正和 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (20466874)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地球温暖化 / 気候フィードバック / 気候モデル / 上層雲 |
研究実績の概要 |
気候フィードバックの解析は、気候応答の解釈と不確実性の低減を助けるものでなくてはならない。そのためには、異なるフィードバック過程間の関係性(正相関、逆相関など)を考慮した定式化が有効である。2019年度は、気候モデルにおける長波の上層雲フィードバックが、上空も含めた気温の変化によってどの程度説明できるのかを理解するために、気温減率フィードバックと上層雲フィードバックの関係性を調べ、熱放射応答、相対湿度一定を仮定した水蒸気長波フィードバック、上層雲の温度一定を仮定した雲長波フィードバックを一括りにまとめた新しい定式化,T-FRAT(Thermal radiative damping with Fixed Relative humidity and Anvil Temperature)の有効性を検証した。まず、MIROC気候モデルにおいて不確実性の高いパラメータを走査したアンサンブル実験について、各気候フィードバック間の相関関係を調べた。その際、気温減率フィードバックがどの程度ばらつくかを調べたが、ばらつきはT-FRATの有効性を容易に検証できるほど大きくはないと判断した。そこで、気温減率フィードバックの大きさを理想的に変える感度解析を実施した。その結果、気温減率フィードバックと(相対湿度一定条件下の)水蒸気長波フィードバック、気温減率フィードバックと(上層雲温度一定条件下の)雲長波フィードバックの間に相殺関係が見られ、正味の(実効)フィードバックの定量化という点でT-FRATフィードバックの有効性が示された。本研究結果は、Yoshimori et al. (2020)の一部として査読付き論文に発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MIROC気候モデルにおけるパラメータ走査実験結果の活用についてはさらなる検討が必要であるが、理想化実験によって当初目標であった気候フィードバック間の連動性やT-FRATフィードバックの有用性を示すことができ、気候フィードバックの新しい枠組み・定式化を研究コミュニティに提唱することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に示した気温減率フィードバックと上層雲フィードバック間の連動性は、理想化実験に基づくものであり、現実的なシミュレーションにおいてどの程度一貫して成り立つかについては未だ検証の余地がある。そこで、より一般的に成り立つかついて、検証方法も含めて検討する。また、2019年度に提唱されたT-FRATフィードバックの診断は技術的なハードルが高いため、幅広く活用されるためにはより簡便な方法の提案が期待される。この可能性についても検討する。さらに、現在気候(基本場)の雲分布と理論的に計算可能な湿潤断熱減率の変化のみから、どの程度温暖化時のT-FRATフィードバックを説明できるかを検討する。
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