研究実績の概要 |
本研究では、温暖化基礎理論の構築へ向けて気候フィードバック過程間の関係、特に大気大循環モデルを用いて、熱放射、水蒸気、上層雲の高度変化に伴うフィードバック間の連動性を調べた。2019年度には、それらの連動性から新しい放射フィードバックの定式化を提唱すると共にその有効性を示した。2020年度には、異なる気温減率フィードバックを示す複数のモデル設定を見出した。以降は、大局的には熱帯の上層雲の雲頂付近の温度は温暖化前後で不変であるというFAT理論に基づく雲応答と気温減率フィードバックとの関連性について数値実験を通じて調べた。2022年度はこれまでの実験デザインを改訂し、積雲のエントレインメント率に関わるモデルパラメータ1つのみを走査した数値実験を追加し、不明瞭であった結果を精査した。その結果、第一次近似としては、エントレインメント率を大きく表現したモデルほど、温暖化時に上層の昇温が抑制され、負の気温減率フィードバックの絶対値が小さくなり、正の雲FATフィードバックが小さくなる傾向にあることが示された。これは、人工的にモデルに与えた気温減率の変化とFAT雲フィードバックの関係性を示したYoshimori et al. (2020)の結果を、モデルによってシミュレートされた気温減率のばらつきを用いて検証したことになり、結果をより強固に支持するものである。なおこの解釈は、初期解析結果報告時とは異なり、代替的な方法ではなくFAT雲フィードバックを陽に計算することによって明らかになった。本研究により、気候フィードバックは複雑ではあるが、水蒸気と雲の変化には気温を通じた連動性があり、温暖化応答の一部を説明する基礎的かつ重要な知見が得られた。さらに、寒冷化と温暖化実験の解析を通じて雲と地表アルベドフィードバックの関係も指摘した(Sherriff-Tadano et al., 2023)。
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