研究実績の概要 |
本研究では、海洋における微量金属の循環において沈降粒子が果たす役割に注目し、北太平洋の東経175度ラインに沿って実施されたセジメントトラップ試料及び直下で採取された表層堆積物の元素分析を行い、微量金属フラックスとその変動要因を明らかにする。さらに、特に生物の必須微量金属として重要な鉄の同位体分析を行って、海洋の物質鉛直輸送に伴う鉄の生物地球化学的プロセスを解明することを目的とする。これまでに、セジメントトラップ試料のバルク元素分析を行い、Site 6 (30°N, 亜熱帯海域)、Site 7 (37°N, 遷移帯海域)、Site 8 (46°N, 亜寒帯海域)における沈降粒子構成成分と元素組成の関係を明らかにした。今年度は、セジメントトラップ試料の鉄安定同位体測定を実施した。各地点(n=4)における鉄同位体組成(δ56Fe)の平均値(±1σ)は、Site 6で-0.08±0.02‰、Site 7浅層で-0.05±0.04‰、Site 7深層で-0.17±0.04‰、Site 8で-0.24±0.09‰であった。これらの値は大陸地殻の平均的な値+0.1‰よりも低いが、Site 6及びSite 7浅層のδ56Feは、これまでに報告されている風成塵や遠洋性粘土の値の範囲であった。Site 7深層のδ56Feは浅層よりも約0.1‰低く、鉄マンガン酸化物の影響が考えられる。Site 8の値は、Site 6とFeの余剰フラックスが同程度にも関わらずδ56Feは0.1‰以上低く、鉄マンガン酸化物に加えて生物による取り込みが影響している可能性が考えられた。
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